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牡丹燈籠のryosukeのレビュー・感想・評価

牡丹燈籠(1968年製作の映画)
4.2
三隅とのタッグで有名な撮影監督牧浦地志の貢献も大きいのだろうか、大映京都の面目躍如と言ってよい隅々まで美意識の行き届いた傑作だった。冒頭の灯籠を持った人々の列が坂を上がっていく様がシルエットとなっているロングショットのハッとするような美しさ。
お露とお米が初めて新三郎宅に入ってくるシーンの、入り口の暗闇に消え入りそうに佇んでいる姿に、後に彼女らがこの世のものではないと明かされると得心するような雰囲気があった。新三郎が結婚するよう迫られる菊が登場する時も、その表情に過剰な不気味さがあり、音楽もそれを煽っているので気になっていたのだが、彼女は結局その後は姿を現さない。
蚊帳の青緑の薄絹と、その赤色の装飾、同じく赤のお露の着物が、幽霊との初夜という恐ろしいシチュエーションを鮮やかに彩っており忘れ難い。そして、アクの強い顔芸を披露してくれる西村晃が家を覗くとき、その光景はおぞましいものに変貌している。
飛ぶ飛ぶとは聞いていたが、部屋の中でふっと浮き上がりダイナミックかつ縦横無尽に部屋の中を飛び回る幽霊は見たことがなかったのでテンションが上がった。小屋の周りを滑らかな動きでぐるぐる回りながらお札を剥がせと迫る二人、西村晃に手招きをしながら横に滑っていくお米ととにかく幽霊の見せ方が魅力的。
西村晃の奥さんという役どころの小川真由美の存在感も凄まじく、欲望が全身から噴出しているようなエネルギッシュな振る舞い、ニカッと笑顔を作る様がどこか清々しい。序盤に新三郎と幽霊との邂逅を見つめていた西村晃が如何にも悪さをしそうな不穏な雰囲気を出していた割には、新三郎を助けるため奔走するので意外に思っていたが、悪女の小川真由美に操られて、案の定彼らしい小悪党に変化する。
この夫妻がコメディ・リリーフとなるのだが、あまりにその存在感が大きいので、一見すると緻密に作り上げられた幻想的な恐怖を壊しているように思えなくもない。もっとも、カメラの側に寄ってきた西村晃がこっちは出るかもしれないなどと言いながらコミカルに動き、反対側の扉を開けると幽霊が出現しギョッとさせるワンカットに代表されるように、物語世界から浮き上がったコメディ要素と完成度の高い幻想描写の同居が奇妙な味になっているようにも思う。幽霊のアクションのクオリティが非常に高いだけに、幽霊に導かれる西村晃がピアノ線か何かで引っ張られているのが丸見えなのがちょっと勿体ない。
この夫婦も怪談らしい因果応報から逃れることはできないのだが、小川真由美の強すぎるエネルギー故にさぞかし手強い亡霊になるだろうなと思わせられ、新たな物語の予感を感じるのは自分だけだろうか。
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