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瀬戸内少年野球団のMOCOのレビュー・感想・評価

瀬戸内少年野球団(1984年製作の映画)
4.0
「私たち、野球 やりましょう」

 足柄竜太と戦犯として判決を待つ元海軍提督の父に同行して島にやってきた波多野武女(むめ)の淡い恋と、中井駒子(夏目雅子さん)と戦争で足を失い家に帰る機会を失った夫(郷ひろみさん)の深い愛を中心に、村人を巻き込んだ子供たちとGIの大人たちの野球が描かれます。

 昭和20年の淡路島。江坂町国民学校の初等科5年の男の子たちは複雑な気持ちで終戦を迎えました。日本の敗戦で「りっばな軍人になる」ための教科書は黒くぬりつぶされ、何を目標に生きて行けば良いのか解らなくなってしまったのです。この戦争で父親を失くした男組の級長=足柄竜太とバラケツ(ヤクザもんのこと)=正木三郎はもっと複雑な気持ちでした。

 子供たちの担任駒子先生も戦争で夫を亡くし、嫁ぎ先の父母から(駒子を気に入っている)夫の弟との再婚をせまられ、70人の漁師を抱える婚家の網元を離れるべきか迷っていました。

 そんなある日、片足が無い男が偶然竜太とバラケツの前に現れ、駒子先生を裏山に連れて来て欲しいと頼みます。男は戦死したと伝えられた駒子の夫でした。しかし駒子は手紙を書き、『私には資格がない』と、会うことを拒んでしまいます。駒子はある夜、義弟に体を奪われていたのです。
 そして「死んだらだめだよ」と言う竜太とバラケツに落ち着いたら手紙を出す約束をして男は島を離れていきます。

 やがて武女の父親が裁判のため島を離れ、バラケツがダメな兄姉に誘われ学校を出ていき。子供たちの心を一つにしようと駒子先生が教室で竜太に言います。
「私たち、野球 やりましょう」
 
 ルールは知らない、夫が愛した野球ならきっと子供たちが、夢中になれる、そして自分もきっと・・・。

 気持ちの整理がついた駒子は、夫がいる金比羅を訪れ・・・。

 金比羅での会話は涙を誘い、ラストにバラケツの歌う「かえり舟(復員兵の歌)」が印象に残ります。

第27回ブルーリボン賞
 作品賞
第8回日本アカデミー賞
 作品賞
 優秀主演女優賞(夏目雅子)
 新人俳優賞(佐倉しおり)など数々の受賞をするのですが、キャストに新人として名を連ねる弟役の男優のことを「すごい迫力のある俳優さんが出て来た。」と友達に話した記憶があります。
 この映画は渡辺謙さんのデビュー作品であり、同時に27歳で白血病で亡くなられた夏目雅子さんの最後の主演作品です。(偶然ですが渡辺謙さんも白血病にかかりましたね)

 夏目雅子さんは1980年のNHKドラマ『ザ・商社』の出演で芸の幅を広げた女優で、1982年の『鬼龍院花子の生涯』の「なめたらいかんぜよ!」は有名なセリフですが、清楚で可憐な役が似合う女優さんでした。

 昭和歌謡史に名を連ねる作詞家阿久 悠さんの自伝といわれる小説を元にした映画、瀬戸内三部作の第一部です。

「核家族」なんて言葉も存在しない頃の、お嫁さんが嫁ぎ先の両親に意見をできない時代のお話です。そんな国だったのです、100年にも満たない少し前のこの国は。
 
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