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第9地区の教授のレビュー・感想・評価

第9地区(2009年製作の映画)
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悪い意味で、人間万歳!と狂喜してしまう。その名もズバリ「エビ」と称されるエイリアンが見事。
映画冒頭、サササッとPOV形式で手際よく説明されるエイリアンたちの「グロさ」が演出としてまず周到。外見がまず人間が敵意を持ちやすい。そして、そこまでの文明もなければ知性、武力もない。
ただ、いわゆる人類のタチの悪い方ぐらいには野蛮。ここがミソ。
だから「気持ち悪い」し「怖い」と、隔離される。

それを矢面に立って排斥しようとするのが主人公のヴィカス。官僚的というか役人的というか。自身の行為に対して組織の言うままで疑問もなく残忍な行為にてらいがない。
からの立場の逆転から、ただただ人間は無思考に、事情も考慮せず、感情や印象や、興味だけでどこまでも残忍な姿を晒す。
エイリアンたちは自分たちの暮らしを、普通に守りたいだけ。高潔でもなければ正義など語らない。
ただ一方的に人間側に差別感情が増長されていく。

というメタファーと言えるかどうかはわからないが、全編に渡ってその人類の愚かさが描かれ続けるうちに、だんだんとエイリアンに感情移入してしまう見事さ。

そしてヴィカス演じるデイヴィッド・ジェイムズが冴えない小役人から、どんどんとヒーローと化していく。その演技力も凄い。またエイリアンの兵器とかパワードスーツとか男の子大好きなガジェット萌えも楽しい。

また人体の損壊描写も徹底していて、要するにここまでしないと目的まで達成できないし命がけ、あるいは殺し合いなんだから、という意味でおためごかしのない描き方に好感を持てるし、だからこそヴィカスの行動と、世間の反応が切なさが増大するので非常に効果的。むしろ殺戮を仕掛けてくるのは人類の方だし。

そして何より「これはご都合主義だ」という展開を異常なまでのテンポの良さでクリアしているし、色んな方向に振っていった話がしっかりと一本の芯になっていったり前半の構成が見事に伏線になっていたりテーマ部分のエモーションが終始途切れないのが本当に素晴らしい。
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