天豆てんまめ

日本のいちばん長い日の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
4.2
噂に違わない日本映画屈指の傑作だ。

原田監督の2015年版も素晴らしかったが、重厚感、迫力、リアリズムは本作の方が圧倒している。

玉音放送。ニュース映像などで誰もが耳にしたことがあるだろう。

でも、あの放送がなされるまでに様々な立場でどんな激烈な葛藤、闘争、命のやり取りがあったか、その太平洋戦争終結にいたる24時間の緊迫、濃密な時間がまさに眼前に迫ってくる。

終戦派も本土決戦派も命を懸けて守ろうとしたものは何なのか。

狂気に見えても、狂気にならざるを得ない心情が迫る。

上官を斬った将校が極度の筋硬直によって手から刀が離れず、何度も机に叩きつけるシーンのリアル。

岡本喜八監督の緊張感のある演出力の賜物だと思う。

以前、ご縁があって、故・岡本喜八監督の奥さんでもありプロデューサーの岡本みね子さんとお話する機会があったのだけど、そこで庵野秀明監督が岡本喜八監督の大ファンで、生前対談していることや「シンゴジラ」の群像構成劇はこの作品をベースにしていることなども伺った。

喜八監督版「日本のいちばん長い日」は、東宝の気合いの原点であり象徴の作品なのだと思う。

岡本喜八監督という希代の映画作家を支えた奥様はご自身も近年映画を撮られているが、美しく明晰で、優しさとエネルギーに満ちた素敵な女性だった。

本作の脚本は名脚本家・橋本忍で、ポツダム宣言から終戦前日までを冒頭30分でドキュメンタリー風に描いた後、どーんと、作品タイトルが出る大作感がぐっとくる。

上映時間は2時間37分だが、喜八監督流のテンポと刻みと緊迫感で全く飽きさせない。白黒映画なのだけど、逆にリアルさが増すという不思議さ。映画全体から熱気が放っているよう。

物語の構成は大きく2つであり、鈴木貫太郎(演じる笠智衆がまた素晴らしい)内閣の無条件降伏をめぐるギリギリの駆け引きと、一部の将校が決起し、玉音放送を阻止しようと皇居を占拠した「宮城事件」だ。

登場人物と同様に観ているこちらも緊張感と疲労感でぐったりするのだが、戦争の終焉を体感する意義があると思う。

それにしても、三船敏郎演じる阿南陸軍大臣の存在感。私にとっては黒澤明監督作品より本作に、年を重ねた三船敏郎の凄みを感じた。

責任あるリーダーとして、これ以上無い理想を体現していた。徹底抗戦を望む陸軍の代表でもある一方、天皇の御意向を受け、今度はいかに荒れ狂う兵たちを抑え、最後の責任は自らの死をもって償う。その苦渋の連続の中の表情が心を鷲掴みにし、忘れ難い。

他に、急先鋒の畑中少佐役を演じた若き黒沢年男の狂気、熱演も印象残る。ニット帽のおじさんとだけ思っていたのにいい役者だったのだと知った。他も東宝35周年映画足る当時のオールスターキャストで埋め尽くされている。

最後のナレーションが、今、この瞬間、この時代に問いを投げかけられていると思う。

日本に二度とこのようなことが起こらないこと。ただそれだけを祈るばかりである。

ただそれだけを。