天豆てんまめ

ハンナとその姉妹の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

ハンナとその姉妹(1986年製作の映画)
4.1
ウディ・アレンの映画では5本の指に入る好きな作品。

もう決して若くはないけど諦め切れない夢を抱いて日常に、仕事に、恋愛に悩みもがいてる3姉妹。その滑稽さ、切なさ、痛々しさに笑いつつも身につまされる。

ウディ・アレンのシリアス系傑作「インテリア」も3姉妹を描いているけど、その冷たい硬質さの対局の温もりとコミカルさが持ち味だと思う。

長女のハンナ扮するミア・ファロー(ジャケ写左)は完ぺき主義な性格、夫のマイケル・ケイン(彼がまたいい味出す!妻の妹をドキドキ待ち伏せする姿と言ったらもう😂)と安定した生活を送りながら、どこか苛立ちを抱えてる。

次女のダイアンウィースト(ジャケ写右)は失業中の女優志望で陽気とナーバス行ったり来たり。

末っ子で繊細なバーバラハーシー(ジャケ写真ん中)は芸術家の夫にうんざりしていて、ハンナの夫と愛し合っていき、、

一見仲の良い3姉妹の関係が裏切りを孕んでいる緊張感。冷ややかに残酷な台詞を吐く一方で、肩を抱き泣いてしまうような、血を分けた姉妹の深くも脆い絆がじわじわ迫ってくる。

でもドロドロな様相を見せつつもどこかあっけらかんと陽気に突き放す視点はこれぞウディアレン真骨頂の独特の距離感と人間観だと思う。

そこにコミカルリリーフ、アレン本人がハンナの元夫で精密検査で死の恐怖に慄くテレビプロデューサー役の妄想ゆえの右往左往で大いに笑わせてくれる。

でも彼の姿を見ていて、こんな感覚分かるなって共感する点も多い。

死への不安に取り付かれても、都会の雑踏のせわしさも、忙しい仕事や日常も、混み合うレストランも、日常は何も変わらず流れていく。

人生の意味ってなんだろう。ふと立ち止まることは誰にでもある。そこで彼がどんな心境に至るか、是非味わってほしい。

こんな一見交わらない3姉妹のドラマとアレンコメディがいい塩梅に混ざり合って、アカデミー脚本賞受賞も納得の人間の心の機微が細やかに描かれたビタースイートな人間ドラマになっている。

きっと3姉妹の誰か、或いはウディ・アレンかマイケル・ケインかに自分を投影できるはず。

色々あるけど人生捨てたものじゃないと思わせてくれる私のお気に入りの作品だ。