このレビューはネタバレを含みます
60〜70年代のアメリカにおけるマイノリティを描き切った叙事詩である。この作品にはマイノリティしか登場しない。軽度知的障害者、女性、アフリカ系、負傷退役軍人に焦点が当たり、ケネディ大統領からニクソン大統領のときの主人公の経験が主なストーリーとなる。カウンターカルチャー、ヴェトナム戦争には特にフォーカスが当てられ、アメリカ社会に不可逆的な影響を及ぼしたことが、一人の人間のナラティブからも感じ取れる。そして、マイノリティの人生は基本的に悲劇であり、ヒロインのジェニーは死ぬ間際以外に救いがない。このような悲劇を直視できるのは、主人公の軽快な語り口によるものだ。ただ、神への信仰というアメリカ建国以来の軸は変わらないというのが監督の主張なのだろう(退役軍人の不名誉な生存とプロテスタントの厳格な神の対立は、一応描かれているが)。マイノリティにフォーカスしながら、社会問題として提起してはいないというところが、映画の制作された90年代の雰囲気なのだろうか。エイズでヒロインを失っても、子供の残された主人公の未来は明るい。漠然とした不安の広がった当時のアメリカ社会への処方箋として機能したと評価できる。