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カリスマのnetfilmsのレビュー・感想・評価

カリスマ(1999年製作の映画)
4.5
 ベンチに横たわりウトウトする薮池五郎刑事(役所広司)を上司(塩野谷正幸)は浅い眠りで起こす。「奥さんと息子さんは元気か?」前日の取り調べのせいで眠れなかった藪池は上司の問いに答える。代理士を人質に青年が立てこもるという事件が発生し、藪池は事件解決のために容疑者のアパートに向かう。前日の疲れを残しながら、身の危険も感じるような交渉に入る藪池に対し、容疑者はルーズリーフに書かれた紙1枚をそっと手渡す。そこには「世界の法則を回復せよ」という謎の文言が書いてあった。だが事件は容疑者・人質4名が死亡という最悪の結末を迎えた。このことが原因で上司に休暇を取らされることになった薮池は、犯人から受け取った「世界の法則を回復せよ」という謎のメッセージに導かれるように、後輩刑事である西(戸田昌宏)の導きである森へと足を踏み入れる。妻と子供には「しばらく家には帰れない」という文言を残して森に足を踏み入れた藪池は、乗り捨てられた廃車の中で暖を取るも、翌朝火のついた廃車から辛くも脱出を試みる。匍匐前進をしながら森の中に迷い込んだ藪池は、目の前に1本の木を目撃する。その木は「カリスマ」と呼ばれる奇妙な木で、根から毒素をまき散らし周りに生える木々を根こそぎ倒していく不思議な力を持っていた。その為、植林作業員の中曽根(大杉漣)や市の環境保全課の坪井(大鷹明良)は他の木を守ろうとカリスマ伐採に躍起になるのだが、いつも森の奥に住む桐山(池内博之)に妨害されてしまう。

 薮池刑事は中曽根とも桐山ともコミュニケーションを交わすが、あえてどちらか一方の立場につこうとはしない。彼らの単純な二項対立に見えた村の図式は、神保姉妹の出現を機に、より複雑なレイヤー構造と自己矛盾を生む。たった1本の木に翻弄される人間同士の浅ましい争い、主人公である薮池刑事は、「世界の法則を回復せよ」というメッセージだけを手掛かりにこの村に住み着く。しかしながらこの村では単なる事件とは違い、数発の銃声では解決出来ないそれぞれの思惑や利害関係が露わになる。「カリスマ」の木が迎えた悲劇的結末を経ても、村のバランスは更なる崩壊を見せる。1本だと思っていた「カリスマ」の木が実は2本だったというのは、黒沢の書き足した脚本上の設定である。薮池刑事はこの木を「カリスマ」だと信じているが、桐山や神保姉妹はそれを否定する。しかしながら彼女たちの取った行動は明らかに過剰であり、その一部始終に薮池刑事は気付いてもいる。『CURE』において高部刑事に訪れた大胆な結末同様に、役所広司は手に負えない最も危険なモンスターに徐々に変貌を遂げ、世界と対峙する。クライマックスでは既に世界は崩壊し、彼の居る地点からは恐るべきその状況は解明されない。これ以前の『勝手にしやがれ!!英雄計画』に世界の崩壊の端緒を見ることが出来たが、後の『回路』同様に、既に世界は崩壊しているのである。山梨の山奥から、東京の崩壊を目撃した主人公はいったい何を思ったのだろうか?
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