ユースケ

機動警察パトレイバー THE MOVIEのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

夕陽で赤く染まる東京の街を眺めながら東京湾に身を投げる男からのパラシュートで降下する陸上自衛隊の空挺レイバー部隊への流れ。
更に、暴走レイバーの追跡、破壊、映し出される無人のコックピットからのオープニングタイトルへの流れ。
映像と音楽がシンクロしたオープニングシークエンスで掴みはOK。

ユートピアでもディストピアでもない現実の延長線上にあるロボットが当たり前のように存在する日常風景を描き出し、新たな近未来像を提示した日常系SFのパイオニア的な一本であり、1989年の劇場公開から現在に至るまでひたすら繰り返し鑑賞し続け、私の血肉と化した、私が映画を好きになるきっかけになった一本。
インターネットが普及していない劇場公開当時にコンピュータウイルスによる犯罪を描いた先見の明やノアの方舟、バベルの塔、エホバとヤハウェ、獣の数字666、創世紀第11章など、聖書からの引用にも注目です。

とにかく、セリフを一切使わず、川井憲次が作曲した幽玄な音楽と樋上晴彦が撮影した見捨てられた東京の景色のみで描かれる二人の刑事が犯人の手掛かりを追って廃墟を巡るシーンが素晴らしい。
廃墟と高層ビルの対比の効いたこのシークエンス自体が犯人からメッセージであり、温故知新の精神を忘れ、土地開発に勤しんだバブル期の日本に対する批評にもなっているところもお見事です。
他にも、コンピュータウイルスによって全てのモニターがバベルの赤文字に埋め尽くされるシーン、低周波の共鳴がレイバー暴走のトリガーだと気付くシーン、夜明けと共に始まるイングラムと零式の格闘シーンなど、シビれるシーンが盛り沢山。
人類を救う方舟の名前を与えられた巨大洋上プラットホームが、神の怒りを受けたバベルの塔のように崩壊し、現れた六本の支柱が六芒星を描く、皮肉の効いたラストシーンもたまりません。

とりあえず、理想の上司ランキング生涯No.1のカミソリ後藤こと後藤喜一警部補が率いる寄せ集めの独立愚連隊・特車二課第二小隊の活躍を描いた初期OVAシリーズ(通称アーリーデイズ)を鑑賞してキャラクター愛を深めてから本作に挑みましょう。

最後に、押井守監督作品を読み解くヒントをひとつ。日常のシンボルは犬、非日常のシンボルは鳥。これを踏まえてから鑑賞すると新しい発見があるかもしれません。