【1989年キネマ旬報日本映画ベストテン 第10位】
『鉄道員』降旗康男監督が向田邦子の同名小説を映画化した作品。キネマ旬報ベストテンでは第10位に選出された。
出演は高倉健、富司純子、板東英二など。戦争が迫る時代を舞台にした大人のラブストーリー。二人の男と一人の女をめぐる人間ドラマとして普通によく出来ている。
降旗監督らしい情緒のある演出が光る秀作。独り者の門倉、戦友の水田とその妻と娘、主にこの4人をめぐる物語だ。時には喧嘩もしつつ、でも友として気持ちよく付き合うその関係性が爽やか。
終盤はちょっと不穏な感じになっていくが、概ね平和な人情話として描かれている。自由恋愛が咎められたり、街には兵隊が闊歩していたりとすぐそこに戦争の影が見える。
俳優陣はみな好演しているが、富司純子のナチュラルな色気がとてもよかった。妻として従順だが門倉に惹かれてもいるという複雑な心境を自然に演じていた。
特に何か特別なことが起こるわけではないが、降旗監督の詩的な演出で紡がれる優れた人情映画。秀作。