イルーナ

道のイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

(1954年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「この世には、役に立たないものなんか一つもないんだよ。例えば、この小石だって役に立っている。空の星だって役に立っている。君もそうなんだ」
ちょうどいじめがひどい時期にこの作品を観たのもあって、イル・マットのこの言葉に何度心震わされ、涙を流したことか。
今でも思い出すだけで涙が出てきます。間違いなく、私の人格形成に大きな影響を与えた作品です。

古典中の古典だけに色々と語られている本作。
ストーリーだけ見ると悲劇以外の何物でもないのですが、不思議なことに観終わるとやさしく温かく、救われた余韻が心に残ります。
それだけ、観る者の心に寄り添うように作られた作品だということです。
まず、イル・マット。上記のセリフがあまりにも有名ですが、その直前では、「ザンパノの元からさっさと逃げよう」じゃなくて、「ザンパノは犬のようだ。君に惚れているんだよ。でも話し方が分からない。吠えるしかないんだよ」
「君の他に誰がザンパノの側にいてやれると思う?」と、犬猿の仲のはずのザンパノの心を誰よりも理解しているんですよ。
ザンパノは確かに、一途なジェルソミーナのことを愛していた。
イル・マットを喪った悲しみのあまり働けなくなったジェルソミーナを置き去りにする場面では、寝ている彼女に毛布をそっとかけて、傍らにトランペットを置いてから去っていく。
けれど、最後まで彼女の前で愛する気持ちや思う心をうまく表現することができなかった。
それだけに、ラストの海辺での慟哭が心に深く深く突き刺さる……
ジェルソミーナとイル・マットがある種の神性を帯びた存在だっただけに、一番人間くさいんですよね。それだからなおさら。
そしてジェルソミーナ。名前の由来はジャスミンで、その花言葉は「愛嬌、清純、無邪気、あなたは私のもの、私はあなたに付いて行く、素直、気立ての良さ」。
本当にそれを体現したかのような生き方でした。
他にも、作品の紹介文では「白痴」とされていますが、ザンパノの訛りを聞いて故郷を訪ねるなど、意外と鋭いんですよ。
家族からも「ちょっと変わった子」と呼ばれていたけど、人を見る目はまぎれもなく本物だった。

また、何度か見返すと、「こんなに細かい所にも隠喩が散りばめられていたのか」と驚かされる作品でもあります。
海辺で始まり海辺で終わる物語ですが、海は命や魂の故郷。火は生命力の象徴。
ジェルソミーナの最後のセリフは「薪がないわ、火が消える……」。ということは……

あと、戦後のイタリアの文化や状況を描いたという意味でも重要な資料。
普通に人身売買が行われていたという時代背景に最初観た時は衝撃を受けたものですが、その金額(1万リラ)は劇中を観る限りだと「ワイン5本程度」……
当時の生活難がしのばれます。
イルーナ

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