ちろる

道のちろるのレビュー・感想・評価

(1954年製作の映画)
4.4
遅ればせながらやっと手を出す気になったフェリーニの名作。
僅かなお金のために親から売られ、粗野な男に買われ、捨てられ、女として生きていく内容としたらなんとも物悲しい。
僅かな愛を感じようとしたり、伝えたり、働く楽しみを感じたりしようとして自らの人生に燈を与えようとするジェルソミーナの姿はとても切なくて美しかった。
ジェルソミーナとザンパノの関係性が単なる無垢なものと粗野な男の構図ではなく、憎んでも憎しみきれない男女ゆえの遣る瀬無い複雑な感情がこの物語全体に覆い被さるので、ラストのザンパノの嗚咽は格別に重い。
ちなみに2人の関係性に特別な意味を持つ綱渡り芸人イル マットの存在もなぜか切なくて痛々しい。
お調子者でザンパノの正反対の存在であるイル マットでさえも実は目の前の相手に正直な想いを伝えられない不器用で寂しい人間だったようにも感じるから、あんなふうに出て来て消えるのはショックだ。

全体的に表情やシチェーションで見せるこの作品の中において唯一、人間味がある生きた会話を交わすイル マットとジェルソミーナのシーンはとても印象的でこの言葉がこの映画全体の意味を成す。

僅かのお金のために娘を売った母親も、ジェルソミーナを飼ったザンパノも、他人を度がすぎるほど馬鹿にするイル マットも残酷ではあるけれどこの作品には悪意は存在しない。
悪とか善とかそういった観念を捨てて、完璧な人間はいない事や誰もがきっと誰かにとっては必要とされて生きているというフェリーニの人間賛美の視線がしっかりと伝わるから、殺伐としたストーリーなのに苦しくはならない。
なぜだか無性に「星の王子様」を思い出してしまう。

「大切なものは目に見えないんだよ」
ね、ザンパノ
ちろる

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