メランクさん

東京の女のメランクさんのレビュー・感想・評価

東京の女(1933年製作の映画)
5.0
働いて学生の弟を養っている姉が、
実は酒場で働いていたことを知って絶望した弟が自殺する話。

姉、あるいは母、または恋人の思いや苦労を知らずに、
逆上した弟や息子や彼氏が女性を虐げるみたいな話は
映画においてはよくあるパターンではある。
でもまはか一直線に死んでしまうとは…

今作が力強いのは弟が死んでも姉は泣き寝入りせず、
受け入れなかった弟を「弱虫」と切り捨てる。
姉はもう全てを覚悟の上でやっていたのだし、
自分の選択を後悔したりは絶対にしない。
この後ろめたさのなさは時代を考えれば斬新で、
スキャンダルを食い物にしてる男性記者たちと対照的に描かれている。
あんたたちのジャッジなど気にしない。
自分は自分の選んだことをしたまでだと。

しかし良ちゃんの「弱虫」さは際立つ。
真実を伝えにきた恋人を罵倒した挙句、
結局はそれが真実だとわかって姉を責める。
想像力もなければ建設的でもない。
姉のあるがままを受け入れられずに
自尊心とともに去る決断をする。

こういう男性が一般的な時代に、
こんな悲劇の中でさえ女性の尊厳にしっかりと注視している。
1933年にしてすでに小津はすばらしかった。