よーすけカサブランカス

誘拐犯のよーすけカサブランカスのレビュー・感想・評価

誘拐犯(2000年製作の映画)
4.3
勿論この作品には一級のクライムサスペンスとしての側面がある。誘拐犯、妊婦、医師、ボディガード、夫婦、雇われた老人、各キャラがそれぞれの考えによって、決して一つの道に収束しない行動をとり、全く予想のできない緊迫した展開が進んでいく。特に序盤の誘拐実行、そして緩急のあるカーチェイスのシーンは本当に素晴らしい。終盤の娼館での高低差、遮蔽物をふんだんに使った銃撃戦も独創的だった。
そして物語としては冒頭のチンピラっぷりが明示するような結末を迎えるわけだが、この作品にはもう一つ大きな側面がある。
言うまでもなく、代理母に任務という存在である。身重な彼女の世話をしながら逃亡する誘拐犯の姿には、デパルマのアンタッチャブルを想起させもするのだが、この存在はアクションを不確定なものにさせると同時に、破水や出血のシーンを通して男たちの競り合いの哀れなマッチョ性を浮き彫りにする。これは、金が欲しい誘拐犯と、どんな手を使っても赤子が欲しい夫婦の勝手な欲望から、子を守る母親の戦いでもある。