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エム・バタフライのnanaのレビュー・感想・評価

エム・バタフライ(1993年製作の映画)
3.8

身を滅ぼした運命の恋


1964年
文化大革命中の中国

実在した女装スパイとフランス外交官の実話を元にしたストーリー。


フランス大使館の外交官ルネ·ガリマール(ジェレミー·アイアンズ)

夜会で「蝶々夫人」を観劇し、主演女優のソン·リン(ジョン·ローン)に一目惚れする。
毅然としてミステリアス。
ソンは彼にとっての“バタフライ”

真面目な勤務態度が認められ、経理担当から副領事に抜擢されるガリマール。
フランス情報部を統括する権限を持つように。
出世をし、妻を裏切るガリマールとソンの蜜月の日々が始まる。

ソンは女装したスパイ。
ソンとの出会いで奈落に堕ちてゆくガリマール。

恋は盲目で。
ベッドも共にするし、貴方の子供を妊娠したと赤ん坊を見せられれば全て信じるガリマール。

なぜ男性と気づかない?
と思うのだが元は京劇俳優のソン。
国のトップエリートの俳優である。
彼も革命の犠牲者で、この任務には悲しい理由がある。
時代に呑み込まれた理不尽な罰。


機密を引き出され、破滅に突き進むガリマールの純粋過ぎるソンへの愛が切ない。
バタフライ、バタフライ、と囁く声が暫く耳から離れなかった。

護送車のシーンのジョン·ローンはゾッとするほど美しかった。
挑戦的な眼差しが恐ろしいほどセクシー。
あざとく、でも自らへの愛を確かめるように求める。

ジョン·ローンの出生については色々と謎が多い俳優さんだが、自身を孤児で京劇の俳優だったと言っているインタビューがあった。
誕生日すらハッキリとしない。
ミステリアスな彼特有な魅力がある。



この作品のモデルの二人は実際には20年間夫婦生活を送り、外交官は疑った事が無かった。

2009年6月、70歳でパリで死去したバタフライ・元京劇俳優のジ·ハイハク。

当時の事件を語る生前の彼の映像を見る事が出来た。
ほっそりとしていて小柄。
華奢な肩とシナのある上品な立ち振る舞い。

外交官の事を、シレっと話す様は氷のよう。
体温を感じさせない冷たさの中に強い憤りのような馬鹿にした表情。

よけいに胸が痛んだ。
さすがは一流スパイ。

言動でいつ、存在が無くされるかもしれない人生を送った人だ。

あんなに自分を愛してくれた人を、こんな表情で話せるものだろうか?

本当の胸のうちはわからないけれど。
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