ブタブタ

ストーカーのブタブタのレビュー・感想・評価

ストーカー(1979年製作の映画)
5.0
~記録~
:197×年✕月✕日:
秘密機関《モナーク》本部

とある1室、白人の男女と黒人男性・中国人女性の4人の姿が見える。
黒人男性が映写機にフィルムをセットしスクリーンに映写を始める。

白人男性「今度は何だ?」
黒人男性「これは日本のTVショーだ。いわゆる〝yarase〟と言うらしいが奇妙な物が多数映っている。まずは見てくれ」

映像が映し出される。
画面に日本語で「水曜スペシャル」の文字、続いて「川口浩探検隊シリーズ」と出て仰々しいBGMと共にナレーションが被さる。
広大な森林地帯のヘリからの空撮。

隕石の落下か? !?
それとも宇宙人の来訪か!? !
人跡未踏の樹海の更にその奥のとにかく更に奥深く、謎の人喰い異次元超空間《ゾーン》は実在した!!!!!

謎に包まれたとある小国に《ゾーン》と呼ばれる不可思議で異常でとにかく凄い地域があった!
ある日、天を焦がす眩い閃光と共にその一帯は一夜にして全く別の世界へと変貌を遂げた!!
政府はこの異常事態に立ち向かうべく軍隊の大軍団を差し向けた!
だがしかし1人の兵士とて帰還しなかった!!

そこは《ゾーン》と名付けられ周りを何重もの鉄条網が張り巡され警戒厳重な警備隊が《ゾーン》へのあらゆる者の侵入を許さなかった!
だが、この《ゾーン》の奥深くには、人間の一番切実な望みをかなえる神の奇跡を齎すと言う謎の光に満たされた黄金に輝く「部屋」があるといわれていた!
そこで、禁を犯し《ゾーン》に侵入しようとする命知らずの者たちが存在した!
危険を冒し死の覚悟と引き換えに「部屋」まで案内する彼等を人は『ストーカー』と呼んだ!
我々水曜スペシャル取材班はついにこのストーカーの一人と秘密裏に接触する事に成功!
川口浩隊長率いる探検隊は未知なる冒険を求め《ゾーン》への決死の侵入を開始した!

大量の水が滝の如く流れ落ちる「乾燥室」で大蛇の如く荒れ狂う濁流に呑まれ忽然と姿を消した隊員の運命は?!
何人もの生命を奪ったと言う「肉挽き機」と呼ばれる数キロにも及ぶ長さの非常に危険で恐ろしいバイプの中で我々探検隊が見た、迫り来る驚愕の未知なる危機の正体とは?!

その全てをくぐりぬけ、深い井戸をもつ、波紋が連なる謎の砂丘の部屋を通過し、ついに!ついに!「部屋」の入口までたどりついた川口隊長率いる探検隊!!

果たして全ての願いを叶えると言う神の奇跡を齎す光に満たされた黄金に輝く「部屋」の正体とは?!?!?!

ここでフィルムは終わっている...

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最近の若い人達は知らないと思いますが昔『川口浩探検隊』と言う今で言うところのフェイクドキュメンタリー番組がありまして川口浩率いる探検隊が「猿人バーゴン」や「巨大蛇ゴーグ」などUMA(未確認生物)を求めて人跡未踏の無人島やジャングルを捜索すると言う、子供の頃は本気で信じて見てました。
おおらかな時代だったんですね。
同じくUMAを調査する秘密機関モナーク(『キングコング:髑髏島の巨神』より)も絡めて『ストーカー』のあらすじをパロディにしてみました。

それはさて置き川口浩探検隊のUMAと同じく「全ての願いが叶う部屋」もハッキリとその姿を我々の前に現す事はありません。

でもそこは重要ではなくて、ストーカー・作家・科学者の三人による時間や空間が歪んだ世界《ゾーン》の奇妙な探検とその道行きで交わされる形而上的な会話、謎は謎のままであり〝望みが叶う部屋〟の前に来て三人が下す決断も然もありなんと納得させるもの。

ストルガツキー兄弟による原作『路傍のピクニック』とタルコフスキー監督による映画『ストーカー』はちょうどPKディック原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』とリドリー・スコット監督『ブレード・ランナー』の関係に近いと思いました。
出来るだけストーリーはシンプルにキャラクターも絞りテーマも1本に集約した感じ。
原作の最終章の部分、願いを叶える《願望機》及び《黄金の玉》をストーカーと随伴者が求めてゾーンを探検する話しに膨らませ、より哲学的に人間の精神世界への旅、内宇宙SFとして描いたのが『ストーカー』だったと。

そして『ストーカー』は撮影時、当局の検閲や様々なトラブルに見舞われ何より驚いたのが撮影所のミス(?)で〝最初に撮影された『ストーカー』〟のフィルムが紛失し今存在する『ストーカー』は事実上『ストーカー2』である事。

最初の『ストーカー』に関しては採用されなかったストルガツキー兄弟による脚本『願望機』の内容が近いとか様々な説が有りますが実体は永遠に謎です。
主人公は『ストーカー』の寡黙な人物ではなく原作に近い粗野な「赤毛(レッド)」だとか、複数のストーカーが登場しクライマックスでは『願望機』を原子爆弾で破壊しようとするストーカーとかなり大掛かりなアクションシーンになるとか興味はつきません。

ロシアでは『路傍のピクニック(ストーカー)』を原作にしたドラマシリーズの制作が決定しているのですが資金難でクラウドファンディングを始めたみたいで、是非とも完成させて欲しいです。

原作には様々な《ストーカー》が登場するのですが、主人公のストーカー・レドリック(通称・赤毛)は金儲けの為にゾーンに残された異星人の遺物を横流ししている俗物的なキャラクターで、ゾーンを世界を滅ぼす悪魔の御業だと主張しゾーン破壊を企てるカルト組織《闘う天使》に属する反ゾーン主義者の黒人ストーカー・グダーリン、このゾーンに対するスタンスが全て逆の二人ご何故か仲が良く、このコンビを主役にゾーン探索やゾーンを巡る陰謀など、ドラマシリーズならいくらでも話しを作れると思うので哲学的難解SF『ストーカー』とはまた違うエンターテインメントの方向の『ストーカー』も是非とも見たいです
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