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喜劇 あゝ軍歌の一のレビュー・感想・評価

喜劇 あゝ軍歌(1970年製作の映画)
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水前寺清子が歌う『九段の母』に乗せて、観光ガイドのフランキー堺が戦争で息子を亡くした北林谷栄を靖国神社(劇中では「御霊神社」)にアテンドする序盤のシーンからして、いかにも前田喜劇らしい歌謡曲使いに感動させられる。が、当然ながら本作は不謹慎な“反マジメ”映画なのであり、この先、前田(あるいは『喜劇 男の子守唄』『喜劇 命のお値段』の共同脚本・満友敬司)が反復していく“ニセ”(ニセ妊婦、ニセきちがい、ニセ傷痍軍人)と擬似家族というモチーフを詰め込みながら罰当たりな犯罪劇へと向かっていく。やはり終戦記念日の靖国神社での賽銭泥棒というアイデアが鮮烈。賽銭箱に一万円を投げ入れる偉そうな上田吉二郎に谷栄がぼそっとボヤく「あんたの命令で死んだんだから」というような何気ない台詞に核心を込めながら、黙祷と玉音放送をおおっぴらにコケにしてみせる。こうした“おふざけ”の見事さに心底感心するし、靖国で離散した擬似家族が吹き溜まるように再び集まってしまうエピローグも素晴らしい。ニセ傷痍軍人時代の回想から醒める財津一郎のクロースアップ、息子の死の真相を知って寝床で泣き歌う谷栄のクロースアップ、映画はやっぱり顔だと思わされる。
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