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タクシードライバーのBGのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.3
「You talkin' to me?(てんめえェ、俺に言ってんのかよォ?あぁあ?)※意訳です」
巨匠マーティン・スコセッシ監督による言わずもがなの名作!主演は若きロバート・デ・ニーロが務めます。カンヌでパルムドールを受賞したアメリカン・ニューシネマに分類されたりする傑作。主人公のトラヴィスは一種のアイコン化してますよね!

ここで、少しお勉強。アメリカン・ニューシネマって何だべさ?
俺も知らんくて、ちょっと調べただけの薄い解釈だけど、要は70年前後にハリウッドで制作された作品群で、スタジオ主導からフィルムメーカー主導で作られたカウンターカルチャーなのかなと。ベトナム戦争における反戦・反体制の世相を受けてだ。結果として、若手の監督や俳優の登用・台頭、反体制・反権威的な主人公により、真に身近な社会問題が主題として扱われるようになった。そんな一種の流行りもの、いやムーブメントだ。

で、本作って本当に本当に本当に本当にラ…アメリカン・ニューシネマなの?って話。
公開は76年。既にベトナムから撤退してるんですよね。てことは、反戦や反体制、反権力を掲げ 「こんな社会で生きてくなんてゴメンだぜ!」と言うアメリカン・ニューシネマとは一線を画すのではないかと。そこから一歩進んで、「この肥溜めで俺は孤独だ。世界が俺を拒絶する。だが俺は断じてそれを受け入れない!」それがトラヴィスなんじゃないかな。

一見、トラヴィスは意中の女にフラレた憤りを社会のせいにしてブチ切れる、なんて風にも見える。ベツィへの電話中にカメラがスライドして、無人の廊下を長々と写すシーンは印象的だ。
けど、俺は違うと思ったね。彼はどの時点で狂気に走ったか。それは、まさにオープニング以前からだ。その論拠はBGMである。荘厳で不安を煽るオケと優雅でジャジーなサックスソロが交互に流れる。もう違和感しかない。冷静に狂い続けるトラヴィス。そしてラインを越える瞬間、それは先輩ドライバーの言葉。「人生、なるようになるさ。的なっ!?」
つまり、トラヴィスは今現在の孤独にプッツンしたんではなく、その延長にある未来に堪えられなくなったのではないだろうか。

真の孤独とは相対的なものだ。誰かが居て、初めて孤独が始まる。独りの時、人は自分と向き合えるのだから。タクシードライバーであるトラヴィスは客を乗せ、夜の街を走る。いつでも、どこへでも。だが、その孤独な空間がトラヴィスをどこかに辿り着かせることはない。絶対に。

冒頭のヤンキー兄ちゃんのようなセリフは、アメリカ映画協会選出の「アメリカ映画の名セリフベスト100」において10位にランクインしてるみたいです。
で、どこが名セリフかって、トラヴィスを端的に表現しきっているからだ。粗野で排他的で過剰な自意識。しかも、鏡に向かって銃突き付けながら言ってるからね。さらに彼、26歳の立派な大人だからね。拗らせ過ぎ!

そんな痛いトラヴィスを観て、僕らは自身が孤独じゃないことを知るのだ。心の奥の奥に燻る想いが、自分だけのものじゃないことを。粗削りな部分もあるけど、それ故の鋭さを獲得している。まさに不朽の名作!
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