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見えない目撃者のBGのレビュー・感想・評価

見えない目撃者(2019年製作の映画)
3.6
見えざる者だけが視えた事件の欠片。
元刑事は失った"光"を再び取り戻すことができるのか…。

割と硬派な作風の至極真っ当な犯罪系サスペンス。皆様の高評価に促され、観て参りました。うん、面白かった!なかなかに優れたサスペンスでしたよ。原作は知らね。多少のグロはあるから、注意だよ!

本作の優れた所は、やはり途切れぬ緊張感。アイデア自体でもう面白そうなんだけど、それだけに頼らない、しっかりとした構成でした。
具体的に言うと、作中事件の解明段階を大きく3段階に分けて、それぞれにおいて主人公たちの置かれる立場が変わっていくところ。犯人との距離感も当然変わるので、そこで生まれる緊張感もまた変わっていくって寸法。映像的にも創意を凝らしていて、観客への情報開示も非常に適切。←サスペンスでこれ重要!
これは、誰が観ても面白いよねって出来になってます!
特に視覚障害の空間認識を映像化するシーンはgood!場面によっては、主人公の心情まで表現するところまで昇華されており、非常に秀逸だと断言する!素晴らしい!

またタイトルの『見えない目撃者』が意味する風刺性も粋である。当然、視覚障害の主人公を指すタイトルだが、ダブルミーニングとして、社会全般に対する他人への無関心、希薄な人間関係に対する警鐘が根底に流れているのだ。まあ、実はトリプルミーニングとして、ネタバレになる事件真相にも更に掛かっているのだけれども。


ただね。ある点において甘い。主人公に対して、作品世界が激甘。そして犯人も含めて人物描写が甘々。これは主に主要人物の動機描写が圧倒的に足りないことに起因する。
脚本の基本だが、Aという行動理念を持つ人物が、Bという別理念の行動を起こすには、その間に絶対的な理由が存在すべきである。実際は勿論そんなことはないのだが、映画という限られた時間で行う表現としては、外せないルールのはず。本作では、それが各所でおざなりなのだ。これは、脚本に名を連ねる藤井清美先生の「るろうに剣心」でもあった致命的欠点だ。人物描写における連続性の欠如。シーン単体では成立しているが、次の場面では脚本的に別人物になってしまっているということ。…まあ誰の責任とか、これ以上はもう言うまい…。

本作の主な登場人物は、愚かな過ちにより失明した元警察官、惰性で青春を送る男子高校生、定年間近のベテラン刑事。彼等はこの事件に"特別な動機"を持って関わっているはずなんだけど、まあ弱い。だから、なんとなーく巻き込まれて、なんとなーく手伝って、なんとなーく事件を捜査していくのだ。
田口トモロヲの生まれながらにして備わる善人感や、高杉真宙の人生舐めてるけど実は良い奴なんだよイケメン感、なにより吉岡里帆のアタシはこれで女優としてのステップを始めるんだ懸命感に騙されてはいけないのだ。ちなみに大倉君は良い役もらったね!

つまり、サスペンスとしては秀逸だが、ドラマとしてはイマイチな作品と言える。もったいない。非常にもったいない。年一の傑作にだってなれるポテンシャルを持ちながら、普通の良作に留まってしまったのは、心から残念だ。演出面や構成は邦画サスペンスとしては近年ピカイチだと思うし、そこらに転がっている雰囲気サスペンスやTVドラマをスクリーンに投射しただけの代物とは別次元の心意気を感じたものの、脚本細部の練り込みが足りないと感じざるを得ない。

物語の終わりとともに事件は解決したものの、主人公たちが取り戻した"光"は上っ面で浅いものとなってしまったようである…。

色々と書いてしまったが、これも心底もったいないと思うから。だから許してね。あまり深く考えず、サクッと楽しむのがオススメなサスペンスの良作ですよ!映像演出を楽しむためにも、吉岡里帆の御尊顔を拝するためにも、ぜひ劇場へ!
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