螢

暗殺のオペラの螢のレビュー・感想・評価

暗殺のオペラ(1970年製作の映画)
3.9
どうしようもなく湧き上がる虚しさと、現実と幻の狭間で鑑賞者を翻弄させ続けて最後には謎を残したままのラストに、ベルトルッチ美学の萌芽を感じた作品。

北イタリアの小さな街にやってきた青年アトス。彼は、反ファシズムの英雄として暗殺された父の死の真相を調べてほしいと、父のかつての愛人であった女ドライファに招かれたのだった。

彼は、彼女の言葉に導かれるように、はたまた、その異様な力強さに翻弄されるままに、父を殺したと目される男、そして、父の同志たちを次々と訪ね歩く。
そして明らかにされた父の暗殺の真相はというと、アトス青年の想定外のもので…。

物語は、同じ名と同じ顔を持つ父と息子のそれぞれの姿を交互に見せながら進んでいきます。
常に入れ替わり続ける二つの時間軸の一番重要なスイッチ役として存在するのが、アリダ・ヴァリが演じるドライファ。
30年以上隔たった時空を飛び越え、はたまたゆがませ、情人の息子に真実を突き止めるように迫り続ける彼女の前では、若きアトス青年は、意思のある追跡者というよりは、彼女の幻術の鑑賞者のような気がしてきます。

夏の日差しの強さと鮮やかな色彩世界、力強くも物悲しさと狂おしさが込められたオペラの旋律もあいまって、なんだかとても不思議で幻影的な雰囲気に満ちた作品。

真相が明らかになっても永遠に残る謎を象徴するラストシーンの映像に、芥川龍之介の「藪の中」を連想してしまったのは私だけでしょうか。
不可解さが残るのだけど、それも余韻と思える完成度の高さ。

これをベルトルッチは弱冠29歳の時に作ったというのだから、すごい。
螢