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無法松の一生のtakのレビュー・感想・評価

無法松の一生(1943年製作の映画)
4.3
2023年12月13-17日、北九州国際映画祭が開催される。
https://kitakyushu-kiff.jp/

そのオープニングで上映されるのが本作「無法松の一生」(4Kデジタル修復版)である。小倉を舞台にした人情ドラマ。物語の舞台となる街で、阪東妻三郎の松五郎が蘇る。最近観たアメリカ映画に「フィルムが出されれば生き返ることができる」って台詞があったけど、今回の上映がそのありがたさを味わえる時間になりますことを。

戦時中とGHQ統治下の2度に渡る検閲でカットを余儀なくされ、現在完全な形では観られない悲運の作品。そうしたスクリーンの外側の事情が、現存する映画に大きなダメージを与えているのは悲しい現実ではある。しかし、同じ脚本でリメイクが製作されて権威ある映画賞を受けたこと、「男はつらいよ」など後の映画や登場するキャラクターに与えた影響をはじめとして、この映画にまつわるエピソードには心揺さぶられるものがたくさんある。

完全な形ではないにせよ、描かれていたはずの松五郎の最期がなくっても、大尉夫人によく似た女性のポスターを酒場から持ち帰るところがなくっても、松五郎の心情や人柄は十分に伝わってくる。ストーリーを補足するための予備知識は必要かもしれないけれど、カットされなかった阪東妻三郎の表情や仕草、眼差し、照れ隠し、大尉夫人を演ずる園井恵子を捉えた映像の美しさから、そこに込められた心情を汲み取ることはできる。リメイクが世界的な評価を得ていても、このオリジナルを讃える声がやまないのは素晴らしいことだ。

仕事でたいへんお世話になった方が「小倉は好きな街やない」とおっしゃっていた。もともと他県の出身だと聞いているし、長く住んではいても馴染めないところがあったのだろう。でも、カラオケでマイクを握ると村田英雄の「無法松の一生」を唸る。地元の方への心配りから歌い始めたのかもしれないが、男気と情に厚い人柄だったから、物語に共感するところがきっとどこかあったのだと思っている。
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