主人公が強盗に襲われ記憶喪失、浮浪者同然の惨い境遇から始まるが、相変わらず寡黙で無表情な人々とのシュールでコミカルな人生讃歌が溢れるカウリスマキ監督の円熟の一作。平和憲法を叩き込まれた日本人からすると、ビシッと軍服でキメた救世軍(プロテスタント系慈善団体)の姿には何とも違和感や忌避感を覚えるが、彼らが軍隊組織を模したのは身分・出自の垣根を越え規律正しく揃った仲間の象徴ゆえであり、その辺はヨーロッパらしいね(フィンランドは大国ロシアに接した徴兵制の国ゆえ尚更)。港湾のコンテナ住まいの浮浪者から家賃を取る悪徳警官や、社員の給料のため銀行を襲う経営者など、怪しげだが根っからの悪党は存在しなくて、景気も底を打ってユーロ圏に入れたしぼちぼち先は明るいぞ、という仄かな楽観性が滲み出ているのも良いところ。