祖国に帰れば不遇な運命が待つのみだというのに帰国して自殺した同郷出身の作曲家の足跡を追ってイタリアに取材旅行に来た作家が、終末論を唱える狂人と出会い、その話に耳を傾ける──主人公の作家と取材対象の音楽家はイタリアで映画を撮ってそのまま祖国を見捨てて亡命するか否か迷うタルコフスキーの感情を託した自伝的な意味合い。望郷の夢を見る主人公が20世紀末の流行である終末論的な狂人の妄念を託され不可能に思われた奇行を達成する。話はそれだけだが、さすがのタルコフスキー監督、極端に彩度の低いほぼモノクロの映像は美しく非常に静かで暗く眠たげな作風とともに独特の詩的なムードを湛えている。地を這う水の流れが胎内の羊水のように包み込むイメージが印象的で、極寒の過酷な環境なれども故郷恋しで離れられないロシアの大地信仰的な精神性を思い起こさせる。