映画大好きそーやさん

つみきのいえの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

つみきのいえ(2008年製作の映画)
3.7
積み重なった人生と今の肯定。
もう何度も鑑賞している本作ですが、初めて観た時と変わらないくらい感動させられました。
人間は今を生きることに必死で、一々過去を思い返しながら生きることはありません。
今というのは非常に脆く、それだけでは簡単に均衡が崩れてしまいます。
自暴自棄になって、ご飯を食べることを止め、お風呂に入ることさえ面倒になってしまうこともあります。
ですが、過去は確実にそこにあって、いつでも振り返れば道として連なってきているのです。
本作における道というのは「つみき」然とした家に置き換えられており、それらは時間が経つごとに、記憶から抜け落ちていくように水の中へと沈んでいきます。
なぜ水位が上がるのかなどが一切明かされないのは、そこは本作において問題になる部分ではないからです。
水はやはり時間のメタファーでしょう。物理的に埋まっていく様子もそうですが、酸素ボンベや潜水服が必要で、探しに行くには困難を極めるのも、まさに時間を絵本的なアプローチとして表現したように思えました。
今も時間が迫って、大事な記憶が失われつつあるお爺さんは、キセルを落としたことをきっかけに、過去を、記憶を、思い出を、時間の海の中を深く潜って取り戻していくのです。
その都度挿入される温かい場面は、どれもその時の今を映していて、その今が積み重なったことでお爺さんの今があるのだと、生きているのだと伝わってきて、今を生きる私の背中さえも押してもらえているような気がしました。
絵本的なルック、劇伴、脚本と、短いながら確立された味が演出できていて、素晴らしい作品だったと思います。
ただオチには意外性はなく、もう少し後半にかけての盛り上がりが欲しかったようにも感じてしまいました。
画変わりもあまりしないので、画面としては退屈さもあったのではないでしょうか。
総じて、絵本的な雰囲気のもとで、人生とその上に成り立つ今を思い出させてもらえる力強いテーマ性を抑えつつも、成熟された根幹だからこその物足りなさを感じる作品でした!