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バトルランナーのpikaのレビュー・感想・評価

バトルランナー(1987年製作の映画)
3.0
大味過ぎておもろい。シュワちゃんが「あーあー!」って漫画のような声を出してガシガシと闊歩し相手を殺してニヤリとするシンプルなアクション映画と思いきやテレビ番組に熱狂し報道を根拠なく信用しメディアに洗脳される人々への強烈な風刺を含んだ近未来ディストピアの側面がなかなか秀逸な逸品だった。

映画の大半がテレビ番組の撮影シークエンスに占められている。シュワちゃんを筆頭とした犯罪者がストーカーと呼ばれる過去の勝利者とバトルしながら逃げ回るライブ映像をスタジオにいる司会者と観客で盛り上げる。当時のアメリカで人気があったテレビ番組のパロディというのがニクイ。
バトルの合間に何度も何度もしつこいほど観客の反応が映される。その度にバトルの緊迫感や白熱した空気が停止するのでアクション映画としてはリズムが悪くなるのになぜ?
映画を見ている観客はシュワちゃんが冤罪で捕まり無理やり出演させられているのを知っているから『やれ!倒せ!』と応援して見ているわけだが映画の中の観客たちは真逆の反応を見せている。人気急上昇中のアクションスター、シュワちゃんがヒーローを演じているのに画面の中の観客は敵を応援しシュワちゃんにブーイングを浴びせている、その姿を何度も何度も見させられる。今スクリーンに映っている場面は劇中ではこのような反応を受ける場面なんですよと丁寧にもサブリミナルのごとく何度も植え付けるというのは映画の中と同じことをしているのかと考えるととても面白い。

作り手が観客の感情や反応を誘導するというのはバラエティ番組にて泣かせる音楽を流したりスタジオにいる芸能人たちが目を潤ませたり漫才やコントで笑い声を入れたり感心するような驚いた声を流したり現代の日本でも日常的に行われている。周りの人に同調しようとする心理を活かしているのか。
この映画では映画の観客と劇中の観客との反応の齟齬を見せることで普段テレビ番組を見ているときと全く違う感覚を味わうよう仕向け、自分で反応を選択することの重要性を示しているのではないか。

「うーわー!」とはっきりした発音で喚くオープニングのシュワちゃんの演技や女のマンションの雰囲気やエクササイズを流すテレビ、空港の流れなんかに『トータルリコール』を思い出したんだが制作年が近いし同じSF映画でシュワちゃんだからそう見えたのかな。バトルシーンは夜だし廃墟だしで面白味は薄いんだが前半の近未来描写は古き良きSF映画の味がしっかりあって非常に良かった。
スタジオからバトル場へ移動させるスライダーマシン(?)がしつこくて面白い。
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