映画観るマシーン

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドの映画観るマシーンのレビュー・感想・評価

4.0
油田を掘り当てアメリカンドリームを実現した男の愛と強欲と孤独と悲哀の物語

開幕からダニエルが一人地下鉱脈で金を掘る姿と、その後ろで流れる不穏で不気味な音楽が来たる破滅を予感させて怖い
最終盤のダニエル・デイ=ルイスの鬼気迫る演技が狂気的で恐ろしくて観ているだけで口の中が渇いた。

溢れる欲望に従って周囲の人を顧みず"成功"に突き進むダニエルは、強欲に始まり怒りや嫉妬、憎悪、傲慢と人間の持つ負の感情に支配されている。同僚の遺児H・Wを引き取ったり愛情深く育てたり(途中までだが)、人間嫌いだけど愛情も持ち合わせる人だったのが欲望に呑み込まれてしまう。自分の信仰を問われた際に無宗教を誤魔化すセリフがあったように反キリスト的人間として描かれている。
一方、自分で立ち上げた教会で牧師をしているイーライは最初ダニエルさえも導こうしており一見キリスト教的価値観の体現者として描かれていて、そんな彼とダニエルの激しい対立が中盤のストーリーの軸になっている。だけど、イーライが善人として描かれているかと言えば全くそうではなく、石油事業を次々と成功させるダニエルを見詰める眼には嫉妬の炎が宿っているのが分かるし、滞っている$5000の教会への献金を催促しに行きダニエルにボコボコにされた夜には年老いた父に暴行を働いている。最終盤には、経済的に困窮しダニエルの口車に乗って嫌々ながらも神の不在を繰り返し言葉にしてしまうシーンも。
キリスト教を都合良く解釈してしかもそれを自覚しない"宗教家"とアメリカンドリームの負の象徴として描かれる石油事業者のそれぞれのネガティブな部分が平等にしっかり表現されてて観ていて恐ろしくて良かった。

最後のダニエル・プレインビューとイーライ・サンデーの鬼気迫る"対決"は本当に口の中が渇いた。ミルクセーキのくだりはダニエルの欲深さと嗜虐心に戦慄したと同時に、富を得ながら息子と愛を失い廃人同然のアル中になった姿に悲哀を覚えた。

“I’m finished!”