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ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのおーたむのレビュー・感想・評価

4.3
ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品を、初めて見てみました。
重厚で強烈ながら、深い多義性に満ちている、怪作でした。

表面上は、石油で成り上がった男が、成功と引き換えに様々なものを失っていく…的な話ですが、個人的には、登場人物たちの行動を通して、人間心理の複雑さ、不可解さ、恐ろしさを描いた作品、というふうに感じました。
主人公ダニエルは、有無を言わせない迫力と、目的のためなら手段を選ばない行動力から、異様な存在感を放っており、共感できるかどうかとは別の部分で、観客の目を引き付けます。
が、彼の行動について、特に説明はされません。彼以外の登場人物も、そう。
したがって、「なぜその人物がそのように行動をしたか」については、観客の想像に委ねられることになります。

たとえば、ダニエルはなぜ遺児となったH・Wを引き取ったのか。
ダニエル自身の言葉を真に受けるなら、打算的な行動だったということですが、作中でダニエルが息子に接する様子からは、全く愛情がないようにも見えず、本当はどうなのか、考えてしまいます。
ダニエル以外の登場人物も、H・Wが家に火を放った理由とか、ヘンリーがダニエルのもとを訪れた理由とか、行動は決定的なのに、動機がはっきりとはわからないシーンが、多くありました。
おそらく、登場人物たちに対して抱く感情は、見る人によって違うし、見る時期、気分によっても違うと思います。
非常に多くの「考える余地」を提示してくる作品なので、私はなんだか、鑑賞後も本作に頭の中に居座られてるような感覚になってしまいました。

ラストもすごく衝撃的ですが、「なぜここまで」と思わせる部分があったり、単に破滅的に終わったとは読み取りにくい曖昧さがあったりと、やはり、全然スッキリさせてくれません。
闇とも光ともつかない人間の心の最深部にさらに分け入ろうとする、作り手の徹底した姿勢に、敬服すると同時に畏怖も感じてしまう。そんな作品でした。
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