ユースケ

ドニー・ダーコのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

ドニー・ダーコ(2001年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「あと28日と6時間42分12秒」
17歳の高校生ドニー・ダーコ(ジェイク・ギレンホール)の前に現れたフランクと名乗る銀色のうさぎが告げたのは世界の終末までカウントダウンだった。

フランクが導く破壊行為も、転校生グレッチェン・ロス(ジェナ・マローン)との恋愛も、登場人物の行動や発言も、劇中の音楽や映画も、全てがクライマックスへの伏線。

オープニングで流れるEcho & Tne Bunnymenの【The Killing Moon】をはじめ、登校シーンで流れるTears For Fearsの【Head Over Heels】や目覚めのシーンで流れるGary Julesの【Mad World】(Tears For Fearsのカバー)など、1980年代のニュー・ウェーヴ・ミュージックも物語と歌詞が関連付けられております。
ディレクターズ・カット版では、オープニングがINXSの【Never Tear Us Apart】に変更され、ドニーとグレッチェンが結ばれたシーンで流れるJoy Divisionの【Love Will Tear Us Apart】と歌詞が対照的になり、物語との関連付けがより強力になっております。

「一番かわいい男子の隣に座りなさい!」とグレッチェンをドニーの隣の席に座らせる粋な計らいをしたり、理不尽なクビ宣告に「ファック!」と叫んだり、国語教師のカレン・ポメロイを演じたドリュー・バリモアは本作の陰の立役者。どのプロデューサーからも全く相手にされなかったリチャード・ケリーの脚本に惚れ込み、「この脚本、一文字も直しちゃダメ!」と自身の経営する映画製作会社フラワー・フィルムズでプロデュースを買って出た彼女に敬礼。

本作を難解にしているもの、それは物語の中心にあるのに内容がほとんど示されないタイム・トラベルの哲学の存在です。タイム・トラベルの哲学の内容が収録されたディレクターズ・カット版を鑑賞すれば、【ドニー・ダーコ】は難解映画ではなくなりますが、カルト映画でもなくなってしまうので注意しましょう。

タイム・トラベルの哲学…
①プライマリー・ユニバース(基本宇宙)からは、偶発的にタンジェント・ユニバース(近接宇宙)が発生します。つまり多元宇宙=パラレルワールドの事です。
②タンジェント・ユニバースは非常に不安定で数週間しか状態を維持できません。最終的にはブラックホールを形成し、プライマリー・ユニバースまでも破壊してしまいます。
③タンジェント・ユニバースを修正するためにリヴィング・レシーバー(生きた受信機)が選択されます。それはタンジェント・ユニバース発生の最初のサインとして出現するアーティファクト(意図せずに出現する人工物)の近くでランダムに行われます。リヴィング・レシーバーには超能力を与えられ、マニュピレイテッド(操られた者)の力を借りながら事態の修正していきます。
④マニュピレイテッドは事態が修正されるとプライマリー・ユニバースで目覚め、タンジェント・ユニバースでの経験は悪夢として処理されます。マニュピレイテッドには死者も含まれます。

タンジェント・ユニバースを修正する事は、同時にドニーの死を意味しますが、ドニーは童貞を捨てるまで死にたくはありません。
そこで彼らは、学校の水道管を破壊させ、学校を休校にしてグレッチェンと付き合わせ、自己啓発セミナーの教祖の家を放火させ、家でハロウィンパーティーを開かせてグレッチェンとセックスさせ、グレッチェンとドニーの母親と妹を殺し、ドニーに死を受け入れさせます。

タイム・トラベルの哲学の内容を理解してから見るクライマックスはまるで別物。
彼らという上部構造の存在を感じながら、自分の運命を悟り、ヒステリックに笑うドニーの姿に切なさ乱れうちです。