せびたん

彼女について私が知っている二、三の事柄のせびたんのレビュー・感想・評価

5.0
世の中に物語のない漫画(小説みたいな物語が存在しないエッセイ的な漫画)が存在するように物語のない映画があり、たとえばこれがそう、という感じなのでしょうか?
いつ観ても美しすぎる映画です。
自宅でこれを観たのはたぶん初めてですが。

セリフの長さ、効果音の入り方、画面とセリフと音の合わせ方。光の当て方。配色。カメラワーク。カットワーク。等々。今観ても全部すごいんじゃないかと。ずっと眺めてたくなる映画です。これ買っちゃったらたぶんしばらく他の映画を観なくなると思うくらい好きな映画です。

残念なのは何言ってるのかさっぱり分からないことですが(語られる哲学が難しすぎて笑)、言葉の響きが音的に美しいので、なんなら字幕なしで眺めてるだけでも寝落ちしないでいけそうです。くっそ、フランス哲学勉強しときゃよかった、とこれを観るたび思います。簡単な用語の定義とか基本概念とかだけでも押さえていれば、ずいぶんこの映画への理解が違ってくるじゃないかなと思いました。

作品内でゴダール(たぶんナレーターは本人)は「作家であり画家である私の…」と自分について語っていましたが、映画監督であることを「作家であり画家である」と定義するのはかっこいいなと思いました。さりげない定義ではありますが、ハードルの高さはハンパない気がします。第7芸術って言葉があったことを思い出したりしました。

本作は、パリ首都圏を彼女と呼んで世界とのつながりの中で考察し、同時に自分の表現手段である映画について考察するゴダール。ということでいいんでしょうか?
資本主義社会に対する左寄りの視点からの考察には正直違和感があるものの、身も心もどっぷり資本主義社会に浸かっている私には観るたびに新鮮な驚きがあり(たいていすぐに忘れてしまうけど)いつもちょっとおもしろいです。

おそらく映画史上の巨大な存在として語り続けられることになる人が、同世代ではないけれど同時代に生きていて、思考の記録を映画という形式で残している・それを観れるということはすごい経験なんだと思います。
せびたん

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