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シンデレラのaのネタバレレビュー・内容・結末

シンデレラ(1950年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

・シンデレラの役を演じたアイリーン・ウッズ(1929-2010)は、晩年にアルツハイマー病を患ったため、末期には彼女自身がシンデレラに声をあてたことすら覚えていないほどだったのだが、看護師によれば”A Dream Is A Wish Your Heart makes”の歌をよく聴いており、とても慰められていたと語っている。いい話。

・シンデレラの破れたドレスから白いボールガウン・ドレスへと魔法をかけられて変化するシーンは、ウォルト・ディズニー自身が特にお気に入りのシーンだったそう。その思いは非常によく共感できるし、何ならこのストーリー自体が、そのシーンで全てを一発逆転させにくるように意図的に比重を置いている気すらした。

・上に続けて、個人的にはこのシーンが(現時点で)間違いなくディズニーアニメーションの中で最も好きなシーンだ。それにはいくつもの理由が複合しているのだが、

 1.まずはとにかく、ボールガウンのもっさりとした質感がそのままゆっくりと動く感じを、ディズニーの持つ独特の重心付きのアニメーションとしてオリジナリティを持って再現できているのが、いかにも『ダンボ』や『白雪姫』を作ってきたウォルトが好きそうなものをそのまま描写しているきらいがあり、非常に好感が持てるものだった。

 ・個人的には『魔法使いサリー』という、シンデレラのオマージュが多分に入った和製のTVアニメに小さい頃親しみがあり、(母親が幼少期に観ていたことから)自分にとってのシンデレラのイメージは多分にサリーの影響下にあった。そこで先ほどもう一度両作を見比べて見たのだけれど、やはりドレス自体の作り込みの精緻さという一点だけ取っても、本作は(サリーはもちろん、他のどの少女向け作品よりも)異様に群を抜いた出来で、そこにはドレス自体のキャラクター性と言うべき独特の重力的な動きが付加されている(非言語的な面白さなので、説明することがイマイチ難しい)。ダンボやレディ等のキャラクターを、それだけでもずっと眺めていたいと感じた時と同じような視線が、シンデレラが踊るシーンだけでも注がれることになる印象があり、これだけでもあまりの美しさに涙してしまった。

2.加えて、本作はこのシーンに至るまでに50分弱にわたって壮大な「前フリ」が行われる訳なのだが、この前半部では一貫して、継母による家庭の切り盛りというのがどのシーンを切り取っても権力主義的で、そしてその権力とは、常に弱い立場(シンデレラ、小動物)を足蹴にしながら、強い立場(王室、自身の子供、ペット)には徹底して礼賛・服従を選択していくという立場論であるのだ。

・このような権力者像は、今でこそ世界的な共通言語となり、誰もがみても継母の仕打ちは横暴そのものであることが認識できるのだが、しかし1950年という時代観を考えると、(1960年代以降にカウンター・カルチャーが発達するまでは)今よりもよほどシンデレラに近しい扱いを受けることが当たり前である前提というのが、公開当時明らかに確かに存在していたはずで、その中でもここまでシンプルで、そして現実にも立場の弱い視聴者(おもに子供)であれば、誰もが嫌悪感を抱くようなキャラクターデザインとして継母やその娘を仕立て上げているのは、端的に言って恐ろしいほどのセンスである。

・継母の存在から「悪」の姿を誰もが見出せるからこそ、本作でシンデレラがドレスを纏い、ガラスの靴を履き、最後城が「シンデレラ城」として君臨するに至るまでに、ここまでのカウンター・カルチャー的な文脈を帯びることができたのだ(もちろん原作は古典であり、そのどれもがシンデレラが最終的に報われる話にはなっているのだが、しかし継母による圧政のみを特段重厚に描き切っているという意味で、本作はそのどれよりもシンデレラという人物に反権威的な象徴性を帯びせているように思える)。

・ここまで徹底したメッセージを打ち出せるのは、やはり『白雪姫』や『ダンボ』を作り、時のナチスやプロパガンダ映画の全盛期に一矢報いるほどの映像表現を確立してきたウォルトならではなのだと思えたのだった。ちなみに個人的には、(実写版でも全く同じなのだが)一反権威主義の思想を多分に持つ者として、前半部分の継母によるシンデレラの扱いというのははっきり描かれすぎているが為に観ていて大変辛くどんよりした気持ちになるし、あまりにやるせないので(自分の中に内在する本質的に最も恐れている人間像というのが本作の継母そのもので、たまに見る悪夢では、このような立場の人間から無理強いをさせられることさえあるので、悪い意味でのノスタルジーやホラーの意識も混在していて余計につらくなってしまう)、例えばこの前実写版を見返した時も前半部をしっかりと飛ばしてしまった。

3.あと、(これは個人的な趣味も入るのだが)白を基調にしたドレスが端的にものすごい勢いで輝き続けているのも、個人的に高評価したいポイントだ。通常、アニメーション表現で白色を魅せるというのはどの色よりも難しいはずだし、当時の線画を中心とした中で線のみでドレスを表現するというのはそれだけで最も難易度が高いのだが、そこに成功したことによって白色がブリリアントな色そのものとして映えている。

・特に本作においてこれらのシーンは全て夜(それも真っ暗に近い)に繰り広げられることの影響も大きく、白いドレスと黒い背景画との画的な対比が完全に完成されており、それが本作のドレス描写をブーストさせている印象もある。調べてみたところ、やはりウォルト自身もこのような視覚的なギャップを狙っていたようで、つまり本作は、シンデレラ個人の持つ感情というのがこのシーンを通じて一気に(そしてできるだけ華やかに)吐露されるように調整を重ねた結果、このような全編に渡ってコントラストの幅の大きい画作りが完成したらしいのだ。

・余談だが、このシーンに影響を受けたジャスティン・トンプソンという監督は、『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)というアニメーション映画において、同じような手法で、ヒロインであるグウェンの感情とそのジェンダーギャップ(彼を描くにあたっては白・ピンク・水色が基調色になっているのだが、この3色はトランスジェンダーのフラッグカラーである)を、彼自身の心の動静に合わせて色設計に反映したと語っている。このように批評的には、色遣いと感情がそのまま対応するという表現主義的な色彩の可能性を最初に示した作品こそ本作であるという見方が、現在ではすう勢である。

・「ドレスシーンで全てをひっくり返す」というのは、実写版のシンデレラでもとんでもないドレスと統一感あふれるCGによって見事に再現されている気もして、そのセオリーというのが忠実に守られている感があり、嬉しかった。

・本作は公開当時から『白雪姫』(1937)以来の記録的なヒットとなり、本作やその音源をリリースしたことによる利益を元手にして、ディズニーランドの建設とテレビ業界への参入計画がスタートされることとなった。本作は、ディズニーがエンターテイメント「企業」へと成り上がるための決定打となったのだった。

・本作のラストに、シンデレラが自分で隠し持っていたガラスの靴を差し出すシーンがあり、自分は実写版のシンデレラを先に見ていたため、その結論の相違と意外性に驚いたのだが、個人的にはむしろこのガラスの靴というのを結局シンデレラが持っていたということは、最初からシンデレラ自身の運命は、舞踏会で王子様と踊った瞬間から決まっていて、それは継母によりぶっ壊されようのない真実だったということが、この結論だけでも象徴的に示唆されることに繋がる気がしたので、このエンディングがあることによって(鑑賞前の想像以上に)シンデレラが自身により運命を勝ち取った感が出て素晴らしかった。

・また何より、映像で一発逆転させるようなことを得意とするウォルトの表現の醍醐味も多分に感じて、全体を通したオチとして非常にしっくりと来た(極論、継母に閉じ込められてガラスの靴を目の前で履かず仕舞いだったとしても、後日シンデレラが夜逃げをして王室に直訴しに行けばどうにでもなりそう、という含みがあるのも良い)。もちろん、実写ではガラスの靴を懐に隠したりというのはいささか非現実的なので訂正の必要があるし、実車に起こしてわざわざ足にじっくりと当てはめてみることの映像的な優位性、つまり実写ならではの良さも、多分にある。

・総評。ディズニー・クラシックスの一つの到達形と呼ぶに相応しいコマ割りと物語性、そしてシンプルかつ的確なメッセージ性もあり、まさに満点と呼ぶに相応しい映像体験でした。継母のシーンは精緻すぎるがあまり刺さるものが多くものすごく辛くなってしまったので、見返すのには勇気がいるのですが、これも、ドレスを纏うシーンとガラスの靴を履く(取り出す)シーンの2つで、そのすべてをひっくり返してしまうというところが大変に鮮やかです。重厚なメッセージを込めた分、ウォルトが得意とする毎度のコミカルな面白さというのも、ルシファーやガスのアクションや、王様が剣を振り回すシーンにこれでもかというほど余すことなく集約されているので、そのキャラクターに基づく分担も『眠れる森の美女』ばりに卓越したセンスがあり、これぞ歴史的な一作というに相応しい作品でした。カウンターの意味が多分に込められたシンデレラ城がウォルトの後世にディズニーのモチーフになっているのも最高。このような映像に出会えることが本当に嬉しいし、ウォルトのヤバさが全開になったような気すら覚えました(ウォルトのことを考えると気が遠くなってしまうので、本当にほどほどにしておきます)。
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