『アンダルシアの犬』
『イレイザー・ヘッド』
『ファンタスティック・プラネット』
これらの不気味極まりないナンセンス作品は好みがハッキリと分かれるのだけれど私は大好き。そして本作もそういったハイセンスに気色悪い作品であった。
まず第一にこの作品はモノクロ映画なのだが、それが主たるBGMのテクノミュージックに非常にマッチしている。シブい趣味のインディーズバンドのPVのような、追走気味の映像構成がまた最高。
またモノクロ映画の雰囲気頼りではなくて、ホワイトアウトやブラックアウトなどのシンプルな演出を絶妙なタイミングで挿入してくる。これがなんともお洒落に最悪な雰囲気で、語彙が消失するくらいにうっとり。
物語の叙述という側面からするとかなり荒っぽいというか、ハッキリ言ってしまって雑。ただその雑さがいい。狂人のブツ切れになっている記憶を追いかけている臨場感がある。
また螺旋図だとか数字の羅列がつらつらと主人公を包囲していたり、どこまでも先回りしてくるユダヤ人や黒人だったり、閉塞感も素敵。映像の趣味がいいだけに、普通ならば陰鬱でしかないどん詰まりの様相まで楽しめる。無二の作品であるのは間違いない。
一応批判的なことを言うのならば、数学的蘊蓄だとか、『イミテーション・ゲーム』のような頭脳戦だとかはない。そこは間違いなく名前負け。しかしあの奇天烈数列のπに包囲されているという狂躁を表現するならば、この名前以外あり得なかったのも事実。
いや本当に好きです。大好き。