「死」が世界に蔓延している今、久しぶりに見返してみた。
やはり、この映画はおもしろい。
個人的には、5分遅刻してきただけでやたらご立腹だったお父さんがよかった。
お父さんは、死んだ奥さんがいつも使っていた口紅がわからなかったが、娘は知っていた。
このほんの些細なやりとりの中に、この家族の関係と日常が見えてくる。
そして、お化粧が終わり、美しい顔で棺に入った妻をみて、男は人目も憚らず、泣いた。
今までで、一番きれいだった。
だから、一番悲しかった。
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「死」は十人十色。
「死」は人生の象徴。
「死」を前に、それぞれの思いで涙する人たちを、真正面から写すカットが多用されていたが、そこにまた、それぞれの重厚な思いを感じる。
「死」を悼むことは、人間の営みの中でもっとも重要な行為の一つだというメッセージを、本作からしっかりと感じることができた。
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また、本木雅弘という役者が本来的に持っている、理知的で静謐な佇まいが、本作の雰囲気にバッチリはまっていた。これ以上ないキャスティング。
山崎努の老熟したオーラも抜群。
父との確執を軸にした脚本もわかりやすいし、所々で挟まれる軽めのユーモアもいい。
テーマが重厚なのに見やすい作品。
軽さと重さのバランスが奇跡的。
久石譲の音楽も素晴らしく、どこをとってもほとんど欠点がない。
海外でも高い評価を受けているのも納得。
これは凄い。
日本が誇る映画作品。
公開:2008年
監督:滝田洋二郎
出演:本木雅弘、山崎努、広末涼子、余貴美子
受賞:米アカデミー賞外国語作品賞、日本アカデミー賞最優秀作品賞ほか。