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素晴らしき放浪者のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

素晴らしき放浪者(1932年製作の映画)
3.8
ルノワールの初期の作品。『牝犬』の続編かと思ってしまうミシェル・シモンが登場。『冬の旅』のモナのようにアウトサイダーで、その行いのどこにも共感しえないし、恩を仇で返し、『テオレマ』の災いを呼んだ刺客みたいなんだけど、悪戯好きの妖精のようでもありました。

ミシェル・シモンへの当て書きかと思いました。戯曲が原作で、ルノワールがラストを改変したことに原作者ルネ・フォショワは怒ったけれど、映画を観て納得したとのこと。原作をルノワールに紹介したのが舞台で演じたことのあるミシェル・シモンで、製作も担当しています。

それほどシモンの思い入れの強い作品。主役の放浪者の何者にもなりたくない、何物にも縛られたくない、自由を謳歌したいという、ラストの改変は、ルノワールだけでなく、シモンの意向も入っているように思います。

解放されたがっているとは気づかない自身の縛りに気づかされる作品ともいえて、辺境のアウトサイダーに魅力を感じたら、何かに縛られているのかもしれません。そんなことを考えさせられました。

古書店の主は評価されたがっていて、妻は愛されたかった、メイドは経済的に安定した暮らしがほしかった。世間体や偽善を剥いで、本人の欲望を剥き出しにしていく。

『テオレマ』より『冬の旅』のモナの方が近いかな。リトマス試験紙みたいな作品です。
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