ポール・マザースキー監督、ニック・ノルティとリチャード・ドレイファス共演の「ビバリーヒルズ・バム」は、本作のリメイクである。
まず、どなたかは存じ上げないが、この邦題「素晴らしき放浪者」を考えた配給会社の担当者に拍手したい。シンプルながら、これ以上ないくらい、実に素晴らしい、適切な邦題である。
ブルジョワな書店店主が、可愛がっていた黒犬に逃げられて絶望のあまり川に身投げした乞食(放浪者)を助け出し、家に住まわせる、という噺。
まあ、とにかく、乞食役のミシェル・シモンのいたずらっ子のようなコミカルな顔が可愛らしくて可愛らしくて!特に髭を剃った後のキョロキョロした表情は、もう言い表せないほどだ。
彼の無教養(というか動物)な演技だけでも、観る価値は充分にあるが、この時代のフランス映画らしい、極めて詩的な雰囲気がたまらない。実に卑猥な会話なのに全くそう感じられないあの時代だからこその上品さからして粋だし、何より川の描き方が素晴らしい。
屋外でのパーティーからキャメラが引いていき、素晴らしいタイミングで上手から主人公たちの乗った舟が入ってくるカットの、実にのんびりとした美しさ!印象派の画家・オーギュスト・ルノワールの息子だけある、というのは、本当に無理があるといえるのだろうか。
決して大作ではないが、笑えて、美しい、人生賛歌である。