映画漬廃人伊波興一

ブロンド少女は過激に美しくの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

5.0
老齢という言葉に何の意味があるのか? (過激な美しさ)な前では私たちは一瞬で等身大に変わる。こんな作品を観れば人生100年時代も案外楽しみです。
マノエル・ド・オリヴェイラ「ブロンド少女は過激に美しく」

まずはヒロイン役カタリーナ・ヴァレンシュタインが持つエキゾチックな扇と彼女の薔薇色の唇からほとばしる溜息と笑声それ自体がオリヴェイラ作品でお馴染みの愛孫俳優リカルド・トレパのみならず私たち観る者すべてを一瞬で等身大に変えてしまいます。

その可憐さは大小さまざまな形状の鼓膜を震わせて
そこに視線を送る多くの者から蟠(わだかま)りを消し去り、
好ましい視線にやや遅れてカタリーナ・ヴァレンシュタインの奇特な行為にただ戸惑うのみ。

普段、耐乏生活を送る者、年甲斐もなく修羅を燃やす者、あるいは突然大切な知友や恋人をを失って間もない者や長年連れ添った配偶者の顔を忘れた者さえ、その可憐さから想像もできぬようなあまりの乖離に怒りや畏れなどを軽々と超えたように何故か一様に相好を崩します。

そんな得体のしれぬ想念はすべて(過激な美しさ)故にもたらされるもの。
ヴィスコンティ「ベニスに死す」でヴョ―ルン・ヨーハン・アンデルソンに魅入られたダーグ・ボガードのようにワインとマーラーの旋律の二日酔いから醒めぬ限りは、絶対に敏感になれない映画特有の危うい美しさ。
だれしにも若き頃、蟲のように必ず巣くっていた(過激な美しさ)への煩悩も、今や思い出の中にしか存在しない筈だと思っておりましたが、100歳の監督がこうもたやすく手繰る事が信じがたい64分です。