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ヒア アフターのodyssのレビュー・感想・評価

ヒア アフター(2010年製作の映画)
4.0
【孤独な人々とその将来】

タイトルが「hereafter 死後の世界」ですし、実際に死後の世界と触れあったり、他人の過去を洞察する超能力の主が出てきたりするので、そっち系統の映画なのかと思われかねません。けれども、これはそういう映画ではありません。じゃあ、どういう映画なのかというと、一口に言うのが難しいので、実はその難しさこそがこの映画の見どころと言うか、核心なんじゃないかという気がします。予告編も、この分かりにくさを反映してよく分からなかったし。(予告編だけだと、津波のシーンがあるからパニック映画かと誤解しかねない。)

実際、他人の過去を見抜く超能力の主(マット・デイモン)は、そのために苦しんでいる。その能力で金儲けをすればと脳天気に考える兄とは違って、能力のせいで他人と信頼関係を築けず、悩んでいるからです。簡単に言えば、特殊能力ゆえの孤独に彼はさいなまれている。

フランスの人気キャスター(セシル・ドゥ・フランス)は臨死体験をします。その臨死体験と真摯に取り組もうとして変人扱いされてしまい、ついにはポストを失うことになる。でも彼女は自分の体験にこだわり続け、周りに合わせて人気を取り戻そうとはしません。ここにも、やはり孤独の問題がひそんでいます。

そして英国に暮らす少年。双子の兄を事故で失い、薬中毒の母とも引き離されることになった彼はやはり孤独です。途中で不思議ないきさつで事故から救われるという体験をして、それがやがてアメリカから旅行でロンドンに来ていたマット・デイモンとの出会いに通じていく。

こうしてみると、この映画の3人の主人公の共通点は孤独なのですね。それぞれがなぜ孤独になるかの事情は少しずつ異なるわけですが、マットとセシルは超常的な能力・体験ゆえの孤独であるという点では共通している。だからこそ相互の理解が可能になるという暗示が最後になされています。

そして少年は、一見すると死んだ兄との体験は別にして超常現象と無縁な感じがしますが、しかし超能力を持っているのだと思いました。なぜなら、マットとセシルを結びつけるのは彼だからです。書籍市で見ただけで、お互いが好意を持っていると見抜き、二人を再会させるのは少年なのであって、こういう能力は普通ではありません。

ですから、この物語は超常的な体験や能力を持つ者同士の孤独、そして出会いと結びつきを描いているのでしょう。ただし、途中の経過はきっちり描き込まれていて、必ずしもテーマを露出するような展開ではなく、方向性がよく分からないなりに面白いと思える作品に仕上がっています。

そして最後に3人がこれからは充実した人生を送るのではないかと思えるのですが、それはタイトルに暗示されているのかも知れない。hereafterには、「死後の世界」以外にも、「これからの将来」という意味もあるからです。3人のこれからを示唆した物語でもあるのでしょう。

個人的には、マットと料理教室で出会う女性を演じたブライス・ダラス・ハワードが魅力的に思えました。今度は主役で映画に出て欲しい。
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