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アキラ AKIRAのsatoshiのレビュー・感想・評価

アキラ AKIRA(1988年製作の映画)
4.7
 1988年に公開され、全世界に多大な影響を与えた大友克洋監督作品。どのくらいワールドワイドな作品なのかといえば、ハリウッドでの映画化企画が未だに動いては消えを繰り返し、また、「ジャパニメーション」の代名詞的な作品であり、単行本「死ぬまでに観ておきたい映画1001」にも載っているほど。私が本作を鑑賞したのは高校生のときでした。映像の迫力は今観ても色あせないものなので、いつか映画館で観たいなと思っていました。そこへ今回のIMAX版の公開ですよ。正直、新型コロナウイルスの影響で行くかどうか迷ったのですが、公開初日の4月3日時点では緊急事態宣言がいつ発令されてもおかしくない状況。おそらくこれを逃したら鑑賞することすらできないと思い、意を決して鑑賞しました。

 控えめに言って、最高でした。あの大スペクタクルをIMAXの巨大なスクリーンで観ることができて幸せだったのはもちろんなのですけど、何より素晴らしかったのは芸能山城組の音楽です。どうやらこのIMAX版に合わせて新たに音響調整したらしく、それもあって映画の迫力を何倍にも高めています。映画館という環境もあって、体全体が『AKIRA』という作品世界に包まれている気分になりました。何たって冒頭からいきなり「金田のテーマ」が流れてラッセーララッセーラですよ。この時点でテンションが上がりまくりです。

 ストーリーに関しては、世間ではやたらと「オリンピック中止」が現実とリンクしていることが話題になっていますが、私が感じ取ったことは、「この腐った社会をもう1度建て直さなければならない。若い力で」という志でした。

 本作の舞台は2019年(『ブレードランナー』と同じ年!)。1988年の「新型爆弾」爆発に端を発する第3次世界大戦後のネオ東京が舞台です。しかし、劇中の大佐の話では、2019年のネオ東京は、「かつての復興の精神が消えた、腐った街」だそう。確かに劇中の描写を見れば、無秩序極まりない混沌とした世界です。大友克洋先生のインタビューによれば、彼は本作で「昭和」をもう一度作り上げたかったそうで、こうして考えてみれば色々と合点がいきます。本作の舞台は2019年ではありますが、混沌ぶりは戦後の安保闘争を彷彿とさせますし、戦後約30年という時代設定は要するに80年代のバブル期なのです。私は生まれていないのですが、バブルは景気がよく、消費が激しかったそう。本作のものに溢れた混沌ぶりも、この時代を別の形で表現したものだと考えられます。

 人々はかつての復興の志を忘れ、モノを消費するだけの社会。政治家は有事の際に何も決めようとせず、既得権ばかり争っている(まさかこんなダメ政治家のテンプレ描写を現実で見る日が来るとは思わなかったよ)。そして本作では、そんな社会でオリンピックをやろうとしていたのです。この空虚さこそ、本作が予言めいている点だと思います。私はこの点で、「腐った社会」という表現が現代を表す言葉として非常にしっくりきました。

 そして本作には、その腐った社会をもう一度建て直そうというエネルギーがあります。それを有してるのが金田やケイといった若者であり、その象徴とされているのが「アキラ」や鉄雄が持つ力です。あのすべてを破壊してしまえるほどのエネルギーが若者が持つエネルギーのメタファーなのかなと思いました。つまり本作で描かれていることは、この腐った社会の全てをぶっ壊し、もう一度自分たちで社会を立て直そうってことなのだと思います。

 鉄雄はキヨコらと共に別の世界に行ってしまいましたが、金田達は残りました。これから、全てがぶっ壊れたネオ東京を彼らが建て直すのでしょう。原作ではこの辺をより具体的に描き、やってきた諸外国の軍隊を追い払っています。これはやっぱり戦後にあったとされる左右両方の「社会を変える」という強い意志とか憧れが反映されているのだろうなと思いました。つまり本作は、近未来でありながら、描かれているのは昭和という作品なのです。でも、この精神は今こそ大切だとも思います。
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