教授

ベスト・キッドの教授のレビュー・感想・評価

ベスト・キッド(1984年製作の映画)
-
非常にシンプルなストーリーを、繊細な感情を表す演出やテーマを忍ばせる丁寧な演出で見せてくる質の高い映画。
さすが「ロッキー」のジャン・G・アヴィルドセン監督作品。

母子家庭でニュージャージーからカリフォルニアに越してきたダニエル(ラルフ・マッチオ)の期待と不安。
「イジメに遭う」というエピソードをひとつとっても、そこに家庭の事情であったり、転校生故の「虚勢」が混じり合い、それが本作をより「ティーンエイジャー」の物語であることをしっかり感じさせる。

そして「虚勢」によって転落し、あるいは「よそ者」故の正義感がイジメの対象になり、孤立する中でのミヤギ(ノリユキ・パット・モリタ)との出会い。
典型的な「メンター」として括弧付きの「日本」から想像する東洋的な「礼節」によって欧米的な「力の論理」と対決させようという当時ではかなり先進的な考えに基づいてつくられている。

これも「力」を極端なまでに信奉する悲劇は相手を力づくで黙らせる」という影響がライバルであるジョニー(ウィリアム・ザブカ)のキャラクターを通して引き立てられていて。この「コブラ会」が日本発祥の「空手」と言いつつ白人だらけのフェイクである一方で、ある意味日本人に直接空手を学ぶことと対比しての「ホンモノ指向」が勝利するという構造で「反マチズモ」的な思想が窺えて興味深い。

ある日、ミヤギが軍服を着て、ウィスキーで酔っ払っている姿を見てダニエルがミヤギの過去をやんわりと知るシーン。
加えて、クラシックなアメ車のコレクターであるという人物設定に、本筋とは関係のないところに人生の厚みを感じさせるという「背景」の描写がいちいち繊細。

展開や細かなところは求められるプログラムピクチャーの体を為していても、ディテールの作り込み、演出の細やかさで非常に映画として豊かな作品。
教授

教授