あなぐらむ

洲崎パラダイス 赤信号のあなぐらむのレビュー・感想・評価

洲崎パラダイス 赤信号(1956年製作の映画)
4.5
轟夕起子、河津清三郎に新珠三千代に三橋達也と芸達者が揃う、洲崎(すさき)特飲街(赤線)端の人間模様群像劇。
腐れ縁の男女が一歩前に踏み出す場として橋のたもとが設定され、あちら、こちらという台詞で人々の気持ちと場所の揺れ動きが伝えられる。
行く人、来る人、老いも若きも男も女も、どうしようもない気持ちを抱えてそれでも生きていく、そんな風景を川島と脚本の井手敏郎は梅雨の時期の空模様に重ね合わせ、舞台となる川はやがて彼岸へとの繋がる場所となる。
いやぁ、こういう映画無くなったなと。

コメディリリーフの小沢昭一が良く、芦川いづみも清廉で美しい。三橋達也の情けなさぶりが素晴らしい。
チーフ助監督に今村昌平、サード辺りに松尾昭典か(劇中歌作詞)。
撮影はおなじみ高村倉太郎。夜の水面の表現など見事。ラジオ街だった頃の秋葉原も見る事ができる。

この「洲崎パラダイス」は東京大学のそばにあった根津遊郭が移転した新興の風俗街だった。今の東陽町一丁目辺りとも木場辺りとも。赤線なので、冒頭に河津清三郎も言ってるが売春防止法施行が昭和33年で、映画の中では廃止はもう間近。
あちこちで工事が行われていることからも戦後復興、古いしきたりから新しい何かへ変わろうとしている、その中で轟と河津は戦前からの目撃者として橋の袂にいる。「戦後」が政治的に清算をされていく中で、三橋達也と新珠三千代はそのボーダーラインを行き来する。
芦川いづみは「幕末太陽傅」でも郭落ちする寸での所を、佐平次と高杉晋作に救われ、海へ出ていく。溝口「赤線地帯」も同年の作。
長い長いと思われがちだが実は川島作品としてはタイトな本編81分。モノクロだと体感が長く感じるのかというと、そうでもなくて、カラーの方が間延びする事がある。
「幕末太陽傳」と合せてみれば、江戸と近代の遊郭ツアーになる(「女は二度生まれる」も見ると、不見転(みずてん)についても学習できる。川島雄三えらいじゃん)。