このレビューはネタバレを含みます
冒頭、大きな丸太が薄切りにされ、徐々にマッチが出来上がっていくまでの工程が描かれる。
永遠と観ていられるような映像だが、もちろんこれはマッチが出来上がるまでを描いた物語ではない。
主人公はマッチ工場で働くイリス。
どうやら彼女は稼ぎの全てを両親を養うために使っているらしい。
食事を作るのも彼女。
その内容はとても質素なものだが、母親は悪びれることもなくイリスの皿からスープの具材を掠め取る。
物語が進むとどうやら父親は養父であることも分かってくる。
働きもしない居候のくせに、彼は自分の給料でドレスを買ってきたイリスの頬を打つ。
母親からドレスを返品するように言われたイリスだが、彼女は言いつけを守らずドレスを着てディスコへと赴く。
初めて綺麗な格好で社交場へと出向いたイリスは、早速アールネという金持ち風の男に声をかけられ、一夜を共にすることになる。
アールネのことを忘れられないイリスは、彼の元を訪れ再びデートの約束を取り付ける。
が、アールネはイリスとは一夜限りの関係で、愛してなどいないと言い放つ。
その後、イリスは彼との子供を身籠る。
健気なイリスは自分のことを愛していなくても、子供のことは愛してくれるだろうとアールネに手紙を送る。
が、彼からの返信には一言「始末しろ」と書かれただけだった。
絶望的な表情で外に出たイリスは交通事故に合ってしまう。
子供を失っただけでなく、彼女は養父から他所へ引っ越してもらいたいと告げられてしまう。
全てを失った彼女は殺鼠剤を買い求め、自分を貶めた者たちへの復讐を誓う。
アキ・カウリスマキ監督らしく貧しい者たちにフォーカスを当てた辛辣な物語である。
が、会話が単語のみのぶつ切りが多いこともあり、何とも言えないユーモアに溢れた作風にもなっている。
イリスの置かれた状況は絶望的なものだが、何故か観終わった後には若干の清々しさを感じてしまう。
アキ監督作品の常連、カティ・オウティネンのポーカーフェイスも魅力的で、一時間弱の短い時間ながら中身の詰まった作品だった。