医学生だった若かりし頃のエルネスト・ゲバラ(チェ・ゲバラの通称のほうが有名だがチェはキューバ人が付けたニックネーム)が、親友の生化学者アルベルト・グラナードと共にオンボロバイクに乗ってアルゼンチンから南米大陸を北上した実際の旅行記の映画化。
キューバ革命のカストロの右腕のイメージが強いゲバラなのでキューバ人だと勘違いしている方も多いようだが、彼は裕福な家庭で育ったアルゼンチン人。今日のイメージ=“革命家”を志す発端になったとも言われるのが、この南米大陸縦断の旅。
広い空、遠くに映えるアンデス山脈、どこまでも続く草原地帯・・とロードムービーの要素もあるが、作品のテーマは、いかにして医師を志していた青年・エルネストが南米大陸の各国が抱える社会問題に関心を抱くようになったか?に明確に据えられている。実際、ジャケ写にあるオンボロバイクは作品早々に壊れて廃棄されてしまう。
エルネストとアルベルトが道中出会う様々な人々・・喘息の治療をまともに受けることが出来ずに手遅れになった老女、共産主義故に警察に追われ子供を預け旅暮らしを強いられる夫婦、教養が無い為に編み物の民芸品で生活を立てるしかないインカ民族の若い女性、汚職にまみれた警察組織によって仕事を失った男性、そして、アマゾン川を隔てて隔離されたハンセン病患者たち・・の姿が生々しく描かれる。
ストーリーの白眉は理不尽な差別を当時受けていたハンセン病患者施設での一連の出来事。特に、夜のアマゾン川のシーンはエルネストの強い決意を感じる最大の見どころ。
エルネストを演じたガエル・ガルシア・ベルナル。メキシコ出身の俳優で、この後に「バベル」などハリウッドのみならず世界的映画スターになるが、瑞々しくも台詞で語られない強い決意を持った眼差しの演技が凄い。
エルネストとは対照的に、ややお調子者的キャラクターとして描かれるアルベルトを演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナも好演。
本作は特典付きのブルーレイでの再鑑賞であったが、本編の最後に登場する制作当時はまだ存命であったアルベルト本人がメイキングで二人の若い俳優に旅行時の想い出話や演技のアドバイスをしている姿がとても印象的。それだけ本作は事実を基に忠実に制作された良心的な作品だと思える。
個人的に数年おきに無性に見返したくなる作品。