桃子

ゼロの焦点の桃子のレビュー・感想・評価

ゼロの焦点(1961年製作の映画)
3.6
「崖のシーンの発祥?」

土曜ワイド劇場や火曜サスペンスなどの2時間ドラマのラストによく崖が出てくるが、その発祥となったのがこの映画だという説がある。しかし、これは間違いのようである。解説には「発祥は1961年公開の映画『ゼロの焦点』とされている。2時間ドラマではそれを意識したわけではなく『土曜ワイド劇場』のプロデューサーによると、殺人事件があってもいい終わり方にするために大団円で集合するようにしたことや、名所旧跡で終わる意味、取調室で絵はもたず山は合わない、海だと波が動くことで表情に変化があり、犯人もよほど追い詰められていないと話さないことから断崖絶壁が適していたという。また、これが定着するのは1990年代になってからで同時代にパロディ的に語られるようになり、それを2時間ドラマでセルフパロディ的に取り入れていった」とあった。なるほどねえ。セルフパロディだったのか。私はほとんど2時間サスペンスを見ないのだけれど、今度機会があったら見てみようかな。
2か月前に2009年版を見た時に、この1961年版も絶対に見たいと思った。でも2009年版の方が原作に近いので、こちらの脚色には正直驚いた。最後に崖の上で真犯人が自分の罪を全部しゃべってしまうって、マジであっけにとられる展開だった。2時間サスペンスの崖シーンの発祥映画だと言われたのは無理もない。
脚本の橋本忍はロケハンをせずに脚本を書いたらしい。ヒロインが電車の窓から日本海を見るシーンがあるが、実際にはその路線は日本海が見えない場所を走っているとのこと。ということは、野村監督も確認せずに演出したということになる。案外テキトーに映画を作っていたんだなあ。脚本に参加したもうひとりに、かの山田洋次がいる。脚本がふたりいるならせめてひとりがロケハンに行って書けばよかったのに(笑)
撮影裏話は他にもあって、漁村のシーンでは雪が足りず役場の人たちがせっせと塩を運んで雪にしたてあげたそうだ。また、室田佐知子を演じている高千穂ひづるは運転免許を持っておらず、車を運転するシーンはスタッフが車の後ろを押して進ませたそうである。なんとまあご苦労なこと。原作に記述がある『日本海の見える金沢の別荘地』を再現するために、スタッフ一同は時間をかけて再現できる場所を捜したがついに見つけられず、後年に撮影担当者が松本清張に訊ねたところ「そんなことを書いたかな?」と言われたという。作家もかなりテキトーだなあ(笑)
メイン3人の女優さんは、久我美子、有馬稲子、高千穂ひづるである。高千穂さんは4年前に亡くなっているが、あとのおふたりはご存命。有馬さんは去年の前田敦子主演の映画「葬式の名人」に出演している。87歳の有馬さん目当てで見てみたい。アマプラで見放題になるのを待つことにした。
他にも「お!」と思うような俳優さんたちが出演なさっている。西村晃、加藤嘉、穂積隆信、十朱久雄、沢村貞子。特に印象的だったのが西村さんで、悪役ではない普通の人の役なのにすごく怖かった(笑)毒殺されるシーンの演技はさすがという他はない。
テレビでは6回ドラマ化されているが、映画は2本だけである。その両方を見ることができてなんだか嬉しい。
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