ヘロヘロ

幻の光のヘロヘロのレビュー・感想・評価

幻の光(1995年製作の映画)
4.3
強く印象に残るショットが多い映画だった。
宮本輝の原作は未読ですが、あらすじは知っている。
物語の暗さはこの映画のショットの力強さで無力化され、光と影と音の残影がだけが夢の後のように残った。直ぐにストーリーは忘れるだろうから、原作を読んで補っておくことにしようと思う。

物語は原作小説に沿ってはいるが、映画表現を以て再構成されたこの物語は、読む(見る)ことと聞くこととの差異について、多くの示唆を与えてくれた。

光と陰とそこにある空気そして波音
大阪の生活音から奥能登の波の音へ
あらゆる場所に光は偏在し、それは死者の形見のように生者を照らす

丁寧に積み重ねられたショット

黒い衣装を纏った江角マキコの立ち姿が街の風景の中にあるだけで観て良かったと思えた。


シーン/
主人公夫婦が喫茶店からの帰り道、自転車に二人乗りで会話する幸せそうな会話のシーン、続く赤ん坊の身体をベビーバスに浸けている幸福なシーン。
この後、夜になって警察が夫の自殺を告げにくるシーンへと繋がる。
家に帰り1人茫然と畳に座る主人公ゆみ子。動きを廃した固定カメラで切り取られた空間のショットが美しい。自然光を随所に使われており、室内は暗めに捉えられているので全体に落ち着いた雰囲気である。
また、子供たちが出ているシーンは全て奇跡的に素晴らしい。

キャスト/
江角マキコ 立ち姿も座り姿もお顔も圧倒的
赤井英和 カフェのマスター
市田ひろみ

ショット/
中堀正夫 光と色を見事にコントロールして美しい世界観を現出させた撮影監督 中堀正夫はベネチアで撮影賞受賞しているのも当然の良い仕事をした。
家の中から外の光を捉えたショットや路地のショット、遠景に海を据えて畦を駆ける子供達を捉えたショット、海側から家の入り口を捉えたショットなど数え上げたらキリがないほど、見事なショット多し。

葬列を俯瞰視点で木々の間に捉えた俯瞰ショットとそこに降る雪
水平線と暗い海の上の空を背景に配した葬列のショット
道とバス停と待合小屋のショット
暗い部屋の中から外の海を眺める江角マキコの顔が窓明かりを受けて、スクリーンの中に大部分を締める暗がりに浮かび上がるショット
などなど。