エンポリオ

ディア・ハンターのエンポリオのネタバレレビュー・内容・結末

ディア・ハンター(1978年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

生活を元手とする日常とそこに潜り込む狂気。
所謂戦争映画とは、戦争そのもの、またその功罪の描き方という点で一線を画する作品。戦争そのものが物語の軸に据えられる展開が非常に少なく、具体的な意味での、戦争について考えるための映画作品、であるように感じた。第一義的な戦場で展開される、戦争という行為。そこにスポットが当たらないことで浮かび上がってくる光景にこそ目を向けるべき作品。と同時に、今作が浮かび上がらせ得た戦争の縁に目を向けさせようとしない戦争映画とその風潮へ警鐘を鳴らす効果があるようにさえ、思われた。
戦争が生み出す狂気に、銃後の日常は耐え得ない。水と油のように弾けながら接触することもなく、そこにはひたすらに深い溝が掘り下げられていく。この作品にもしっかりと描き出されていたように、その経験を背景として兵士のそれぞれに、それぞれの狂気が訪れ、宿る。同じ戦場を踏み歩いた者同士でも分かち合えない固有の感覚が、その故郷の者に分かるのだろうか。
描写や展開自体に具体性が薄く、掴みやすいヒントが少ない、難解に分類される作品であるとは思うが、狂気に対する抵抗感の異常に弱まった世界には欠かすことの出来ない一作であるように思う。
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