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崖っぷちの男のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

崖っぷちの男(2011年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

NYに建つ歴史あるルーズベルト・ホテルの21階。客室の窓外に突如姿を現し、自身の身の潔白を訴え飛び降りようとしている男ニック。落ちたら即死は間違いないホテル高層階壁面の崖っぷちに立つ男にNY中の注目が集まっていた―。ところが、この裏で、彼が密かに進める壮大な「計画」が進行していた…。

主人公が崖っぷちで尺が持つのか?
自殺を図る男と交渉人の必死の説得、そして男の訴えを解決していく警察の活躍…と、ある程度予想がつくなぁとスルーしていた作品。
しかし、裏では綿密な犯罪計画が進行していたという予想外の脚本が意外と面白かったサスペンスの佳作。

4千万ドルもの価値がある巨大ダイヤモンドを強奪した罪で刑務所に収監されている元刑事ニック・キャシディは、父親の葬儀に出席することを許されるが、その場で弟ジョンと兄弟喧嘩し、付き添いの警官が油断した隙を突いて逃亡する。
その後、ニックはルーズベルトホテルの21階に偽名で部屋をとり、飛び降り自殺を図ろうとする。
瞬く間にニックの眼下には野次馬が集まり、警察が出動。
もしもの時に備えて巨大なエアマットが設置される。

自殺志願者には説得役の交渉人が派遣されるが、ニックは女刑事リディアを指名。
リディアは2ヶ月前に説得に失敗し、信用を失ったが、過去の仕事ぶりは優秀。
ニックは彼女の誠実さを調べた上で指名したのだ。
序盤は「なぜ、主人公ニックが自殺をしようとするのか?」と紐解くミステリー。
刑務所にいたことから冤罪を晴らすための行為だとは分かるのだが「お払い箱となった女刑事を使って、一体どうやって?」という手段が気になる。
しかし、ニックはミステリーの基本である「信用できない語り部」だった。

冤罪を晴らす復讐はニックとは別の場所で展開する。
ホテルの向かいは、ダイヤモンド商のイングランダーの持ちビル。
ニックが盗んだとされる巨大ダイヤは、イングランダー愛蔵のお宝だった。
2年前、ニックは副業として、この巨大ダイヤの輸送警備を担当。
しかし、覆面の二人組にダイヤを奪われ、犯人に仕立てられたのだ。

当時、破産寸前だったイングランダーは、巨大ダイヤの保険金で会社を立て直していた。
イングランダーのビルに忍び込むニックの弟ジョンと、その恋人アンジー。
隠し持った無線でジョンに指示するニック。
ニックの脱獄と自殺騒ぎは、イングランダーが隠している因縁の巨大ダイヤを奪うためだったのだ…と、会話の内容から筋書きが読めてくる。
ニックは自殺する気などさらさら無く、イングランダーのダイヤを盗み出す計画のために自分を囮としているのだ。
飛び降りるかも、と野次馬でNYの交通が麻痺するのだから、ちょっと迷惑な陽動作戦である。

綿密な計画に従ってビルの金庫室に忍び込むジョンとアンジー。
監視カメラやセンサーを潜り抜け、通気口を這いずり周り、イチャつきながら泥棒のために金庫に向かう恋人同士なんて、まるで「ルパン3世」のルパンと峰不二子のノリで軽い。
シリアスなニックと比べて「真面目にやれよ」と苦言を呈したくもなる。

片や、説得を続けるリディアに、人生を奪われた苦しみを語るニック。
同じ挫折したニックに共感し、無実を信じ始めるリディア。
リディアが独自に調べると、ダイヤ盗難事件の直前にニックは悪徳警官に関する内部調査に協力していた。
ニックは、ダイヤの警備に誘われた時点から、悪徳警官の罠にはまっていたのだ。

そしてジョンとアンジーが苦労して開けた金庫には例のダイヤが無いハプニングが。
本当に大事な物は別の小さな金庫に隠されていた。
ダイヤを確認して懐に入れたイングランダーを襲い、ジョンとアンジーはダイヤを奪って逃げるが、警官のマーカスが2人を拘束。
マーカスとニックの元相棒マイクこそ、ニックを陥れた悪徳警官だったのだ。
ニックの飛び降りに対して突入すべく特殊部隊を率いていたマーカスが、実はニックを嵌めた悪党というのはサプライズが効いている。

特殊部隊に追われ、屋上に追い詰められるニック。
マーカスは警官たちを立ち去らせ、ニックとジョンに銃を突き付けた。
そのマーカスの背後に現れ、巨大ダイヤを取り戻すイングランダー。
だが、ニックたちは改心した相棒のマイクによって救われる。
少しこの辺はマイクの心理が描かれないので、急に正義に目覚めるのはご都合主義である。
無理矢理ニックに近づいたり、自分の罪がバレまいニックを殺そうとしていたようにしか思えない。

地上に降りて悠々とビルを後にするイングランダーを見たニックは、「逃がすものか」と何と屋上から救助マット目掛けてダイブ。
すぐさま走り出してイングランダーを捕えたニックは、野次馬が注目する中、盗まれたはずの巨大ダイヤがイングランダーの懐にあることを暴くのだった…。

冤罪が証明されたニックはリディアを誘ってバーへ行く。
そこでバーテンをしていたのは、ニックに協力的だったホテルのボーイ。
実はニックの父親だという。
父親の死さえも偽装だったとは、念入りな計画だ。
そこに弟ジョンとアンジーがやってきて、ニックの無罪を祝う。
さらにジョンはイングランダーの金庫から失敬したダイヤでアンジーにプロポーズ。
アンジーはそれを受け入れ、ニックの家族全員がハッピーエンドを迎える。

思い詰めた男の自殺を止めるサスペンスかと思いきや、途中から冤罪を晴らすためにダイヤを盗む怪盗ものに。
二転三転する脚本は意外性があって面白いのだが、ニックは生命がけなのだから、もうちょっとシリアスにまとまらなかったものだろうか?
加えて言えば、ニックの計画は「上手くいけば」大したものだと思えるものだが、失敗した時の逃げ道が見当たらない。
ニックは飛び降りをやめてもホテル内を連行中に父親の助けで逃げ出せるかもしれないが、ジョンとアンジーは捕まれば終わりでBプランが無い。
飛び降りるフリのニックは迷惑行為だけの軽罪が加わるだけだが、ジョンとアンジーの宝石泥棒はニックより罪が重くなるだろう。
飛び降りないはずのニックが結局は飛び降りる事態になり、しかも即座にイングランダーを捕まえるなど、あまりにもご都合主義である。

「何とか上手くいって良かったね」と思うより、「よくぞ、あらゆる事態を想定して、計画通りに遂行したな…」という方が痛快だと思うのだが。
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