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狂った果実のodyssのレビュー・感想・評価

狂った果実(1956年製作の映画)
3.5
【16歳の津川雅彦】

(以下は13年前に某映画サイトに投稿したレビューです。某サイトは現在は消滅していますので、ここでしか読めません。津川雅彦はこのレビューを投稿した8年後に亡くなりました。その辺の時間の経過を考慮の上でお読み下さい。)

石原慎太郎が脚本を書き、石原裕次郎が映画初主演をしたというので有名な映画です。またフランスのヌーヴェルバーグにも影響を与えたとされています。

場所は湘南で、戦後10年ほどをへた時代。裕福なお坊ちゃんたちが海で遊びほうけていて、そのうち女をめぐって・・・・というようなお話です。

現在でも湘南でヨットやモーターボートを乗り回して遊びまくっている若者は経済的に恵まれたほうだろうと思いますが、戦後10年という時代ならなおさらのこと。クルマを乗り回していることと合わせて、明らかに上流階級に属しています。そもそも、最初に兄弟という設定の石原裕次郎と津川雅彦が鎌倉駅から厨子まで湘南電車(今で言えばJR横須賀線)に乗るとき、二等車に乗っています(車両入口に「2」と書いてある)。この時代の二等車とは今のグリーン車のこと。三等車(今の普通車)になんか乗らない階級の若者だったわけです。

また、津川雅彦が帰宅して、女(北原三枝)から手紙が来ていると女中から聞き、自宅を自室まで急ぎ足を歩いていくシーンがありますが、そこを見るとかなり広壮な邸宅だと分かる。女中を使っていることとと合わせて、その暮らしぶりが分かります。

石原裕次郎と津川雅彦の兄弟ぶりも面白い。いかにも遊びなれていそうな石原に対して、うぶでまじめな若者というイメージの津川雅彦。年を取った今の津川は悪者役も似あうようになっていますが、このときの津川は16歳。世の中の不条理が理解できず、思い込んだら一直線という役どころが実に似合っています。その意味で、この映画は石原の初主演作ということが言われがちですが、(芸能一家に生まれたのでそれ以前も映画に出ているとはいえ)津川が本格的に映画に登場した作品としても記憶されるべきでしょう。

ヒロインの北原三枝は、私はあまり美人だとは思わないのですが、この映画では水着シーン(といっても一体型のですけど)を披露しており、当時の日本人としては体のバランスがすぐれた女優だったのだということがよく分かります。背も高く、津川と並んでも背丈はさほど劣りません。

最初のあたりで若者たちが集まって会話をかわすシーンでは、話が観念的なのと、しゃべるスピードが速いのに参りました。聞いていてよく分からないのです。こんなシーンは今ならリアリティがないということで採用されないでしょうが、原作者が芥川賞作家ということで通ったのでしょう。石原慎太郎に限らず、当時の作家には欧米色にそまった生硬で観念的な言葉遣いをする人が珍しくなかったのです(例えば大江健三郎など)。

北原三枝が、津川に対しては独身令嬢を装いながら、実は・・・という設定も、戦後10年という、まだ戦争の記憶が残り、在留米軍の存在感が大きく、なおかつ日米の経済力の差が著しかった時代ならでは。今ならこういう設定はリアリティを欠いていると感じられるでしょう。

最後は有名なシーン。純真な若者の破壊的な衝動を、ヨットの周りをモーターボートがぐるぐる回る俯瞰的な映像で、物語の構図とともにあざやかに表現しています。あたかもそれは、猛獣が、狙いを定めた獲物に襲いかかるタイミングを計っているかのよう。純真な若者も、その思いを踏みにじられるとき、一匹の猛獣に変身するのです。
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