こめ

魔女の宅急便のこめのレビュー・感想・評価

魔女の宅急便(1989年製作の映画)
4.0
 今の感覚でこの映画の中の人間たちを見ているとあまりに真っ直ぐで快活で屈託がない。悪意も不条理も知らないような無垢さは見ていて危うい気持ちになるし、どこか痛々しくて笑ってしまう。純朴な世界。
 現実はこんなふうには出来ていないと知っているから、むず痒さがある。というか自分が実際の現実を生きて、内面化した人間像とこの映画の中で生きる人間の人間像のギャップに切なさがある。人が集まって一つのことに熱狂している、活気、活力。そういうものを知らない世代の自分は、この映画を見ていて存在しないはずの郷愁を感じる。自分もこんなふうに生きてみたかった。屈折した世界の屈折を内面化した自分にはこの映画は眩しすぎて泣ける。起きておはよう、失敗してごめんなさい、嬉しくてありがとう。そうやって世界に真っ直ぐ反応する人間の眩しさ。
 
 都会に自分を受け入れてくれる家があって、田舎に住む芸術家の友達がいて、実家もある。職場は居心地が良くて、自分の役割を求めてくれる。街の緩いつながり。箒でそれを自由に行き来する。羨ましすぎる。現実の自分の暮らしの貧相さが泣ける。人と人と自然が緩やかに繋がる、そういう豊かさが欲しい。過度に接続するか、断絶するか、オンとオフ、白と黒、そういうコントラストの強い現実が映画を見ていると浮き上がってくる。小さい頃は神様がいて、って言われると本当にそんな気がしてきて泣ける。
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