明石です

非情の罠の明石ですのレビュー・感想・評価

非情の罠(1955年製作の映画)
3.8
崖っぷちに立たされた落ち目のボクサーが、ギャングの情婦に恋し、彼女と駆け落し失敗、ギャング組織に追い詰められる話。スタンリー・キューブリックの長編2作目。フィルムノワールらしい画面内の暗くざらざらした質感に、目の覚めるほど綺麗な(けれども非情な)ファムファタール。そしてまるで1しか出ないサイコロで博打をしてるみたいな超絶不条理なストーリー。

作中通して流れる音楽やカメラワークのこだわり、そして無数のマネキンが並ぶ部屋で斧を振り回して闘う主人公など笑、のちのキューブリック作品に通ずる(というか他の作品じゃなかなかお目にかかれない)要素はちらほらあれど、名作というよりは佳作止まりな印象。取ってつけた、というより何某かの方面にしっかり配慮した結果のようなハリウッドエンディングもこの監督らしくないと言えばらしくない。やはり化けたのは3作目の『現金に体を張れ』だったのかなと。

細かいところだけど、主人公が彼女(ファムファタール)の部屋を訪ねる場面で、写真に写ってるのは家族か?一緒にいた男は誰だ?と続けざまに質問した時の彼女の切り返し、不思議ね。2つのことをいっぺんに聞くなんて。しかもそれが密接に関わってるなんて、という答え方、何とは言い難いけどゾクゾクした。やっぱり脚本から上手いのよねこの監督。しかもこれを書いた時まだ26とか27とかだったはず。恐るべき若者。

——好きな台詞
「ただ毎晩、あの堕落した人間動物園で働いてるの。少なくとも姉はこんな風に踊らずに済んだ。そう思うと気が休まる。愛と同情を一緒くたにしちゃ駄目」
明石です

明石です