巨匠小津監督の1942年の作品。
見事だ。涙がじわりと溢れ出る。
とりあえずこのころの小津監督の映画には、小津調と呼ばれる独特の棒読みのような台詞回しや台詞ごとに人物を切り替えて映すようなカメラワークはまだない。
笠智衆が主役を演じていること、子供の演技が生き生きとしていること以外に小津映画だと即座に分かるところはない。
映画はお見事。
笠智衆は平凡だが責任感の強い、一中学教師を演じている。父ひとり子ひとり。父は愛情深い眼差しとともに、子供を厳格にしつける。
父の惜しまれつつも職を辞する姿は、自分も同じような経験があり、とても他人事のようには見れず、思わず見入ってしまった。
父はいつも勝手に父子の身の振り方を決定してしまってから、突然子供に切り出す。これでいいのかはわからない…。
子供はただ、大好きな父ちゃんと一緒に暮らしたいだけだ。
子供に対する教育は何が正解かはわからない。ただ、ここに一つの典型はある。
ところで、鑑賞中、通信障害があり画面がストップした。動かそうとして再生ボタンを何度かタッチしたらやっと動いたが、場面が父の中学教師時代の事故の場面にいつの間にか戻っていた。自分はそれに気づかず、父の臨終間際の回想かと思っていた。途中で気づいたが、これが偶然にも自分の感動を逆に押し上げた。
そう、父は子供のことを思い続ける一方で、この事故のシーンを何度も何度も後悔し、自分を責めたてたことだろう。きっと臨終間際にも。