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麦秋のkissenger800のレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
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何回か文句言ったことありますが小津はどれが未見タイトルなのか判別困難で、それはキャスティングとタイトルのせい。もう順次filmarksに登録していくしかないね。
そしてこれ、代表作のひとつなのに今日の今日まで未見で。いやーしかし。面白かったねえ(=笠智衆ふうに、ものすごく間をあけながら)。

- 開幕早々のカメラワーク。なるほど世界を唸らせるだけのことあって猛烈にスリリング。日本家屋1階2階の構造を映すだけでこんなにワクワクさせられるものかね? その間何が起きてるかっていうと家族が朝飯食ってるだけなのMCUフェーズ5某タイトルなら主要キャスト誰か死んでるよ
- 全体を覆う戦後感。小津と親交深かった里見弴以上にその盟友大佛次郎っぽく、つまり小津フィルモグラフィーでいうと『宗方姉妹』(1950)なんです。エピローグ近くの東山千栄子台詞は完全にそれで……ってこの何行かハイコンテクスト感想を言いたい欲に負けましたが、敗戦国としての影が理解の彼方なのは仕方ないけど、公開からの半世紀で本邦カルチャーものすごい量、失われたな。そのことにちょっと呆然
- たとえばホールケーキ900円? 高いわー。みたいな台詞があり、それは白米10kgが600円の時代だから今でいう5,000円ぐらい。そうやって翻訳すれば伝わるトピックはいいんす
- 劇中登場する「チボー家の人々」「大雅堂の扇面」「河内山宗春」「たいへん古風なアプレゲールだ」云々。これ、台詞で聞いて意味わかる視聴者もうほとんど居なくないですか。ぜんぶ半世紀前のバズワードだったのにね。って目眩
- かと思うとジェンダーロール観だったりホモフォビアだったりシスターフッド描写だったり、半世紀後のいま見てこそ興味深いトピックも少なくなく
- 「おまえ後悔しないんだな」「しませんわ」「きっとだな」「ありません」(ここで全員同じタイミングで俯く)ってドリフも踏襲していたコメディ文法シークエンスとか
- 大船から戸塚に向かう横須賀線の車窓とか奈良県橿原市の風景とか、奈良出身で北鎌倉に住んだことある俺のためのお楽しみポイントが全編にちりばめられていて誰の差し金なの、って思うなど

どうせ地味でこむずかしいんでしょ。って先入観で小津なり成瀬なり溝口なりを敬遠するひと、きっといると思いますが、そういう世代にこそフラットな気持ちで見てもらいたい。いまさらですけど、そんな着地です。
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