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さすらいの二人のtakのレビュー・感想・評価

さすらいの二人(1974年製作の映画)
3.6
見始めて数分間。この映画には台詞らしい台詞が出てこない。オープニングだというのに音楽もない。ただほこりっぽい砂漠の町をジャック・ニコルソンが車でチョロチョロ動いているだけだ。うわっ、これを最後まで観るのは苦痛かも、と思った。ところが唐突に事件が起こってから、気づくと物語に引き込まれていた。とにかく不思議な魅力を持った映画だ。

現実から逃れるために他の男になりすましたTVリポーター。過去を捨てて生きようとするのだが、様々なものから追いかけられることとなる。この映画を見終わったあとに感ずる虚無感は何だろう。人生はしょせんままならぬもの。リポーターとして様々な現実に対してきた主人公が、最後に現実の醜さについて語るシーンは印象的だ。また彼を見守るマリア・シュナイダーがいい。オープンカーで風を受けながら微笑む彼女の姿は美しい。

アントニオ・ガウディの建築物の数々が登場。現実と非現実の境をいくような主人公の行動を表現するのに効果的だ。また、カメラワークと演出の斬新さもこの映画の魅力。カメラが少しづつ面格子に近づいていくラストの長回しは特に印象に残る。話は暗いし結末に救いもないんだけれど、映像の美しさにうっとりし、人生についてちょっとだけ考えさせられる時間だった。
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